日本内科学会雑誌
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汎血球減少症を合併した全身性強皮症の1症例
大江 明子天津 弘二岡村 幹夫加藤 則之金山 良春堀口 哲雄河野 雅和藤本 繁夫井上 隆智
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1982 年 71 巻 12 号 p. 1746-1749

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抄録

自己免疫学的機序による血小板減少と骨髄抑制に起因すると推測される白血球減少,ならびに骨髄抑制と鉄欠乏に由来すると思われる貧血とからなる汎血球減少症をきたした,全身性強皮症の1例を経験したので報告する.本症例は,レイノー現象と皮膚の硬化と肺線維症を伴つた全身性強皮症の患者で,貧血と血小板減少があり,肺炎を併発して入院した.抗生物質投与により肺炎がよくなるとそれまで反応性に増加していた白血球数がもとにもどり,白血球減少が顕性化し,入院当初すでに存在していた貧血および血小板減少と合わせて汎血球減少症となつた.本症例の血清学的検査では抗核抗体が陽性でspeckled型であり,抗DNA抗体とLE細胞が陰性で,また, ARAの診断基準を満たさず,全身性エリテマトーデスの合併はないと思われる.血球に対する抗体の検索の結果,抗血小板抗体は陽性であり,抗白血球抗体,クームステストは陰性であった.一方,骨髄ではmyeloid系とerythroid系の抑制が認められた.血清鉄は低値を示し,骨髄鉄染色ではsiderocyteが減少していた.血清ビタミンB12とハプトグロビンは正常値を示し,ビタミンB12欠乏性貧血および溶血性貧血は否定的であつた.以上より,本症例の汎血球減少症は,自己免疫学的メカニズムによる血小板減少と,骨髄抑制による白血球減少ならびに骨髄抑制と鉄欠乏に由来すると思われる貧血からなると考えられる.自己免疫学的機序による血小板減少と骨髄抑制による白血球減少,ならびに骨髄抑制と鉄欠乏による貧血とからなる汎血球減少症を合併した全身性強皮症の症例は,著者らの調べた範囲では他に報告がなく,非常に希な症例であると考えられる.

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