1984 年 73 巻 5 号 p. 648-652
赤血球C3b受容体欠損者において,慢性肝障害に不明熱を合併し,皮疹,関節痛,顔面神経麻痺などの臨床症状と,低補体血症をはじめ種々の免疫異常を呈した1例を報告する.症例は46才,女性. 5年前より肝機能異常を指摘されていた. 1年前より38°C台の弛張熱,皮疹,関節痛の出没をみていたが,発熱を主訴に当科入院,入院時の検査所見にて血沈亢進,血中免疫複合体出現,低補体血症,高ガンマグロブリン血症を認め,赤血球C3b受容体は欠損していた.リウマチ因子は陽性であつたが,抗核抗体をはじめ各種自己抗体は陰性であつた.腎生検では,螢光抗体法にて血管壁にC3の顆粒状沈着が認められた.肝生検では小円形細胞の浸潤と線維化の進展があり,特に肝内の動脈壁は好酸性の沈着物を伴つた浮腫性肥厚を示した.皮膚生検にても血管壁にIgG, IgM, C3の沈着が認められた.入院後,不明熱が続き,皮疹,関節痛も出没,入院第19日目に右側の末梢性顔面神経麻痺が出現した.プレドニゾロン投与にて発熱等の臨床症状の軽快と,血中免疫複合体の消失に伴う免疫異常の改善がみられた.しかし赤血球C3b受容体欠損は治療後も続いており,患者兄も同受容体の欠損を示し,先天的欠損が示唆された.本例は赤血球C3b受容体欠損者がB型肝炎ウイルス関連抗原陰性の慢性肝炎経過中に種々の免疫異常を示し,諸臓器の血管病変を発現した1例である.