1989 年 78 巻 10 号 p. 1475-1479
60才,女性.主訴は全身倦怠感,口渇. 3年前に糖尿病を発症,食事療法と経口血糖降下薬で加療されていた.空腹時血糖288mg/d1, HbAlc10.7%とコントロール不良のため入院.胸腹部に著変なく,浮腫,腎機能障害はなかった.糖尿病治療のためヒトインスリン1日合計40U注射を開始したところ,顔面と下腿に浮腫が急激に出現した.同時に尿中Na排泄は159から90mEq/d (平均)に減少,これに伴い尿量も低下した.体重は4.7kg増加,ヘマトクリット,血清総蛋白は有意に減少し,安静時血漿レニン活性は3.68から0.24ng/ml/hに低下した.本例の浮腫発現は,インスリンの直接腎作用によりNa再吸収が亢進し,体液貯留を惹起した結果によるものと考えられる.