2021 年 2021 巻 9 号 p. 45-49
大豆蛋白質と卵白を主成分に,イーストや重曹などの発泡剤やグルテンその他の添加物を使用せず,内相に小麦粉パンのような気泡構造をもつパン状加工物を作製した.パンの膨らみを示す比容積は 5 mL/g 以上であり,小麦粉パンと同等である.また,従来の小麦粉パンや米粉パンと比較して蛋白質含有率が 42 ~ 49%(w/w)と顕著に高く,一方,炭水化物の含量は 1 ~ 11%(w/w)と顕著に低い.最近,特に中高年者の健康維持に蛋白質摂取の重要性が指摘されていることから,本成果のパンは手軽に摂取できる蛋白質源のひとつとして貢献が期待される.
蛋白質は糖質,脂質とともに重要な栄養成分のひとつであり,特に最近では,中高年層の筋力維持に蛋白質摂取の重要性が指摘されている(Yokoyama et al. 2021).2011 年には一般家庭の消費額でパンが炊飯用米を上回ったことが総務省による家計調査で報告されるなど,パン食の普及が高まっていることから,高蛋白質のパンが開発されれば,中・高年層の健康増進に寄与することが期待できる.また,小麦成分を使用しなければ小麦アレルギー患者も摂取することができる.著者らは最近,グルテンや増粘剤を含まない米粉パン(Yano et al. 2017)を開発したが,蛋白質の含量が低いことが課題であった.本研究では,大豆蛋白質と卵白を主成分に高蛋白質のパンを製造する知見を得たので短報として紹介する.
1.パンの作製
大豆蛋白質(Soy Protein Isolated, MP Biomedicals 製)と卵白(市場で購入した全卵から分取),コーンスターチ(川光物産製),ミネラル水(南アルプス天然水, サントリー製)等を家庭用フードプロセッサー SCM-40A(石崎電機製)で 40 秒混合し,生地を作製した.20 g の生地を採取し,直径 5 cm,高さ 1 cm 程度の円柱形に成型したものを家庭用オーブン RE-S205(シャープ製)で 220 ℃,25 分間焼成した.
2.パン比容積の測定
焼成したパンを室温で 1 時間程度放冷した後,パン用ナイフで半分に分割したものを重量計測,およびレーザー体積計(SELNAC - WinVM2100A,アステックス製)による形状計測に供試した.得られた測定値に基づき,パンの膨張性の指標となる比容積(mL/g)を,パン 1 g 当たりのパンの容積(mL)として算出した.
3.パン微細構造の観察
パンの微細構造観察は株式会社東海電子顕微鏡解析に委託した.焼成後のパンを液体窒素で冷凍し,-20 ℃で真空乾燥した.オスミウム・プラズマコーター(日本レーザー電子株式会社製,NL-OPC80NS)を使用して,乾燥したパンを厚さ 50 nm のオスミウム膜でコーティングし,観察用サンプルを作製した.走査型電子顕微鏡 JSM-6340F(日本電子株式会社)を使用し,加速電圧 5.0 kV で観察した.
4.栄養成分分析
パンの栄養成分分析は一般財団法人日本食品分析センターに委託した.水分は常圧加熱乾燥法,蛋白質はケルダール法,脂質は酸分解法,灰分は直接灰化法,ナトリウムは原子吸光光度法による.
1.原料組成とパン断面および比容積
まず,原料に卵白(22.5 g)と大豆蛋白質(0 ~ 12.5 g)だけを使用してパン生地を作製した.これを 220 ℃,25分間焼成しパンを得た.ナイフで半分に切断したものを重量および体積測定に供し,比容積(mL/g)を計算した.大豆蛋白質量(g)に対するパン比容積(mL/g)は黒丸・実線グラフのようになり,大豆蛋白質が 5 ~ 9 g の範囲で比容積が 6 mL/g 以上になった(図 1A).生地にコーンスターチ(2.5 g)を加えた場合は白丸・破線のグラフのようになった(図 1B).

コーンスターチの有無で比容積に大きな変化は見られなかったが,コーンスターチを加えた場合には,加えない場合と比較して気泡の大きさが小さかった.大豆蛋白質が 7.5 g の場合(図 1 の矢印)のパン断面図を図 2 に示す.大豆蛋白質量が 3 g 以下,あるいは 12 g 以上の場合には生地の成型が困難であったり,焼成後にパンが一定の形状にならなかったりしたため除外した.

2.パン内層の観察
小麦粉を主成分とする一般的なパンでは,粘性をもつグルテンのネットワークが発酵ガスを閉じ込め,小さな風船の集合体のようにパンが膨らむ.グルテンの生地は強く,パン製造の際にはグルテンを強化するためパン職人が発酵中の生地をテーブルにたたきつけることがあるが,それでも生地はつぶれず膨らみ続ける.一方,微粒子型フォームの原理で膨らむ増粘剤・グルテン無添加のグルテンフリー米粉パン(Yano et al. 2017)の発酵生地はメレンゲ状であり,泡の集合体のように柔らかく不安定である.発酵中の生地が入ったパンケースに衝撃を与えるとすぐに生地がしぼみ,再度膨らむことはない.焼成したパンの気泡の大きさを比較すると,小麦粉パンでは気泡の大きさが大小様々であるのに対し(図 3 左A),微粒子型フォームの原理で膨らむ米粉パンでは,気泡が小さく大きさがほぼ均一である(図 3 左B).これは,後者では発酵中の生地が壊れやすい微粒子型フォームで構成され,気泡が一定の速度で成長した場合だけパンをうまく作ることができることを示している.

大豆蛋白質と卵白だけを成分に作製した本研究のパンでは,小麦粉パンのように様々な大きさの気泡が散見された.コーンスターチを添加した場合には,気泡が小さくなるものの,同様の傾向が観察された(図 3 左C, D).
電子顕微鏡下でさらに拡大すると,3 者のパンは原料や作製法,膨らむメカニズムがそれぞれ異なるにもかかわらず,膜構造に顕著な違いはみられなかった.
3.栄養成分分析
3 者で栄養成分を比較したところ,本研究で開発したパンは従来の小麦粉パンや米粉パンと比較して蛋白質含有率が 42 ~ 49%(w/w)と顕著に高く,一方,炭水化物の含量は 1 ~ 11%(w/w)と顕著に低かった(表 1).小麦粉生地に豆類や昆虫蛋白質を添加する(García-Segovia et al. 2020, Xing et al. 2021)など,高蛋白質パンを開発する検討がなされているが,いずれもパンの蛋白質含量は 20%以下と高くはない.本研究では,大豆蛋白質と卵白という,本来蛋白質含量の高い原料を主原料とするため,高蛋白質パンが得られたと考えられる.

4.パンが膨らむメカニズム
次にパンが膨らむメカニズムについて考察した.大豆蛋白質が加熱下で変成し,気泡を保持できるゲルを形成することはよく知られている(Kinsella 1979).橋詰ら(1984a)は油揚げを作る際,豆腐生地の中に存在する気泡が,油中で加熱された水から水蒸気が発生する際沸騰石の役割をはたし,水蒸気を徐々に発生させるとともにこれを気泡の中に留め,水蒸気の増加による気泡の膨張によって周囲の蛋白質ゲルを押し広げることで気泡構造をつくると推察している.本研究においてイーストや発泡剤を要せずに加熱下で生地が膨らんだのは,油揚げと同様にオーブンの加熱下で生地から水蒸気が発生し,これが加熱下で変性し,気泡を保持する能力をもった蛋白質ゲルを押し広げたためと考えられる.
大豆蛋白質と卵白蛋白質は加熱下でS-S 交換を行うことが報告されている(Zhang et al. 2020).また橋詰ら(1984b)は,加熱下で油揚げ生地が伸長する際に,蛋白質の SH 基,S-S 交換反応が関与することを示している.本研究で比容積が高く小麦粉パンのような内相をもつパンが得られたのは,大豆蛋白質と卵白蛋白質の S-S 交換による相互作用が生じ,蛋白質ネットワークが密になったためと推察される.メカニズムを明らかにするための研究は著者らが継続して進めている.
植物と動物由来の蛋白質を併用して新規食品を開発する試みは総説で取り上げられるほど多い(Alves and Tavares 2019).また,米粉あるいはジャガイモ/ キャッサバ混合澱粉のパン生地に,大豆蛋白質と卵白を添加してパンの膨らみを改良した報告(Masure et al. 2019)はあるが,大豆蛋白質と卵白を主成分に小麦粉パンと同等に膨らむパンを作製した報告はない.トウモロコシ澱粉が主原料のパンに豆蛋白質と卵白が添加されている例(Bravo-Núñez et al. 2019)があるが,増粘剤ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が併用されるなど,今回の技術とは異なる.
一方,本技術ではパンの膨らみについてややばらつきが大きいなど今後改良すべき課題がある(図 1).大豆蛋白質は,その純度や精製法で性質が異なるため,本手法に適した大豆蛋白質の調製法,また,味や食感についてパン製造者と共同で実用化に向けた共同研究を実施したい.
著者は開示すべき利益の相反はない.