農研機構研究報告
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特集号: 農研機構研究報告
2025 巻, 20 号
みどりの食料システム戦略
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
表紙・目次・編集委員会・奥付
巻頭言
ミニレビュー
  • ―データの持続可能性と活用シナリオ―
    稲冨 素子, 岸本 文紅
    2025 年2025 巻20 号 p. 3-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    本レビューでは,バイオ炭の生産ポテンシャル推定のための,未利用バイオマス賦存量データの再構築過程とその背景を解説する.過去の推計方法を参考に,最新のオープンデータを活用して賦存量データセットを再構築し,データの持続的利用のために推計方法の詳細を別紙として公開した.また,農地由来の未利用バイオマスに焦点を当て,焼成温度に関するシナリオを設定してバイオ炭生産量ポテンシャルを検討した.最後に,バイオマス利用促進のための基礎データの継続的な更新と活用の重要性を示すとともに,みどりの食料システム戦略におけるバイオ炭の役割と可能性を考察した.

  • 中村 真人, 折立 文子, 藤田 睦, 北川 巌, 吉原 茜
    2025 年2025 巻20 号 p. 11-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    メタン発酵は,嫌気性微生物の働きを利用して,家畜排せつ物,食品廃棄物,汚泥等の有機物から再生可能エネルギー源であるメタンを主成分とするバイオガスを取り出す技術である.得られるバイオガス(メタン)を回収し,化石燃料の代替として発電機やボイラーの燃料に利用することにより,電気や熱を生み出すことができ,温室効果ガス(GHG)の排出抑制に寄与する.一方,発酵残渣である消化液は窒素,リン酸,カリ等の肥料成分を含むため,化学肥料の代わりに利用できる.本報では,消化液の肥料としての特徴や現在の研究動向等について整理する.

  • 唐澤 敏彦
    2025 年2025 巻20 号 p. 21-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    土壌管理の重要性は国際的に広く認識されており,わが国でも,農地への堆肥投入量が年々減少する中で,土づくりへの関心が高まっている.また,近年の化学肥料価格の高騰により,生産コスト増加が課題となっている.さらに,持続可能な食料システムに関する日本や欧州委員会の戦略において,化学肥料の使用量を減らすことが目標に設定された.このような観点から,有機物を活用した土づくりと施肥削減に大きな期待が寄せられている.本ミニレビューでは,輸送コストと施用労力の面で有利な有機物である緑肥を用いた土づくりと減肥に焦点を当てる.まず,作土の環境改善(有機物蓄積,カバークロップ効果による侵食防止,土壌生物性改善)と下層土の環境改善(物理性)に役立つ緑肥の機能を紹介する.次に,緑肥が主作物に養分(窒素,カリウム,リン)を供給するメカニズムを紹介する.最後に,緑肥の効果に影響を与える要因(作物種,すき込み時の生育ステージ,後作物の播種までの期間)を検討する.緑肥導入が土壌の質や主作物の生産性に及ぼす影響を定量的に示すことにより,今後,緑肥の利用が拡大し,化学肥料使用量の削減と土壌の質の改善に寄与することが期待される.

  • 高田 裕介, 上薗 一郎
    2025 年2025 巻20 号 p. 31-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    畑土壌可給態窒素は微生物による分解を介して徐々に作物が利用できる無機態窒素を供給することから重要な土壌肥沃度の指標である.生産現場での施肥設計の際,可給態窒素の肥効を可視化できれば,その肥効を考慮した適正施肥の実現が可能となる.可給態窒素の肥効を可視化するためには,土壌の可給態窒素量はもとより,土壌の種類,土壌温度等の土壌情報が必要である.日本土壌インベントリーには,「畑土壌由来の可給態窒素見える化アプリ」が実装されている.本アプリでは,アプリ利用者が指定する位置情報,圃場土壌および地域の標準的な可給態窒素量,作物栽培期間および標準窒素施肥量からデジタル土壌図を用いて土壌の種類および作物栽培期間の土壌温度データを自動的に取得し,可給態窒素の肥効を算出するとともに,標準窒素施肥量から可給態窒素の肥効相当量を差し引くことで,適正な窒素施肥量を算出することが可能である.本アプリを利用し,可給態窒素の肥効可視化による適正施肥実証試験を全国13県の公設試験場と連携して行っている段階である.

  • ―AI-土壌図と土壌環境APIの開発―
    高田 裕介, 早野 美智子, 森下 瑞貴, 滝本 貴弘, 小林 創平, 望月 賢太, 古賀 伸久, 原 嘉隆
    2025 年2025 巻20 号 p. 37-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    みどりの食料システム戦略KPIで掲げられた化学肥料30%低減,肥料価格高騰への対策等,圃場毎に肥料や有機質資材の肥効を可視化する需要が増加している.全国437万 haの農地を対象に,圃場一筆ごとの「肥効の見える化」を実現するため,高精細度土壌図(AI-土壌図)を整備するとともに,生産者が有機質資材の種類や施用時期を市販営農支援ソフトに入力すると,土壌の特性や温度水分に基づき肥効を算出できる土壌環境API(Application Programming Interface)を開発した.土壌環境APIは,AI-土壌図と気象データから圃場一筆毎に土壌温度水分を推定し,その推定値から緩効性肥料や有機質資材の肥効を日単位で予測し,肥効予測データの配信を行うAPIである.土壌環境APIは土壌温度水分推定API,緩効性肥料養分供給API,有機質資材の肥効見える化APIから構成される.また,土壌環境APIで可視化した有機質資材の肥効に基づき化学肥料削減(30%削減を目標)が可能かどうか13県の公設試験場と連携して畑作物20事例で試験を行い,収量を維持しつつ,平均で化学肥料40%の削減が可能であることを実証した

  • 千葉 大基
    2025 年2025 巻20 号 p. 43-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    畝内に条状に肥料を施用する局所施用技術は,機械化が進展する以前より用いられてきた肥料の利用率が高い技術である.畝立同時二段局所施肥機は,畝内の上層と下層の二段に条状に肥料を施用することで,高い肥料の利用率と安定した初期生育を両立した機械である.本報では,畝立同時二段局所施肥機の基本的な性能と露地野菜の栽培における肥料節減効果,今後利用拡大が予想される有機質資材を利用する際の注意点をまとめた.作業能率の面では,ベースとなった嬬恋村慣行機の特徴である培土器で畝立を行う構造を活かすことで,一般的な畝立て施肥機と比較し,作業能率が2~4割の向上となる試算が得られた.肥料節減効果の面では,群馬と鹿児島で実施したキャベツ等の栽培試験において,慣行の局所施用法,及び全面全層の施用方法に対し,3割減肥した場合でも同等の収量が得られることを確認した.有機質肥料の利用においては,平均粒径が2~3 mmの範囲を超える円柱状の肥料を用いた場合に,短期的な肥料散布量の変動が大きくなる場合があった.このため,粒形が大きい肥料を利用する場合は,低い成分量で肥料の散布総量を増やす低濃度大量散布となるような施肥設計が望ましいと考えられた.

  • 野見山 孝司
    2025 年2025 巻20 号 p. 53-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    土壌還元消毒は,土壌に易分解性の有機物を混和後に灌水,被覆して,30°C以上の高い地温を維持することで,土壌中の微生物を活発に増殖させ,酸素が欠乏した還元状態で生じる複数の作用で土壌病害虫を防除する,化学農薬に頼らない環境保全型の土壌消毒技術である.土壌還元消毒資材として用いる糖含有珪藻土は,食品製造工程等においてでん粉の糖化液を珪藻土でろ過する際に産出される副生物であり,固形で取り扱いやすい上に,含有する糖が灌水中に溶出して,深さ約60 cmまで浸透して土壌を還元化する。その結果,深層部に生息する病原菌や線虫を消毒でき,米ぬかや糖蜜等の既存の土壌還元消毒資材にはない優れた特徴を有する.糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒は,施設栽培でのナス科野菜の青枯病や線虫害,サツマイモ苗床での基腐病の防除対策などに活用され,高い防除効果を示す.本法は,世界的な意識の高まりを見せいている持続可能な農業を推進していく上での主要な土壌消毒技術の一つであり,今後のさらなる普及拡大が期待される.

  • ―高知県芸西村におけるトルコギキョウ栽培での実証・普及の取組―
    小原 裕三
    2025 年2025 巻20 号 p. 61-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    トルコギキョウは全国的に栽培されているが,立枯病,萎凋細菌病や青枯病などの土壌病害による被害が甚大で,慣行の土壌くん蒸消毒や土壌還元消毒などによっても全株枯死の事例は珍しくない.低濃度エタノールによる土壌還元消毒技術を実証・普及するためには,園芸作物一般に,生産者圃場の施設・灌水設備,土壌条件や栽培方法などの多様性が大きいため,木目細かな対応が必要である.これらの多様性を考慮しながら,可能な限り生産者の所有の機材・資材を用いた低コストでかつ,土壌病害低減効果のある処理方法に最適化(カスタマイズ)し,高知県芸西村のトルコギキョウ栽培をモデルとして,現地の生産者,自治体職員,普及員,JA職員等と協力し取り組んだ事例について,経済的な評価とともに紹介する.

  • 吉田 重信
    2025 年2025 巻20 号 p. 69-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    難防除病害が多く経済的被害の大きい土壌病害では,栽培前に防除要否の判断が求められることから,従来の発生予察とは異なる発想・概念でその要否を判断し,判断結果に応じて対策を講じる必要がある.こうした背景のもと,予防医学の概念であるヒトの健康診断による健康管理を参考に,圃場の土壌病害の発生しやすさ(発病ポテンシャル)の評価によって防除の要否や適切な対策手段を決定する新たな土壌病害管理法「ヘソディム」が考案され,主な土壌病害を対象にマニュアル化された.さらに,10種の土壌病害を対象に,さまざまな圃場条件に応じて土壌病害の発病ポテンシャルをAIで診断・評価し,評価結果に応じた対策を支援するAIアプリ「HeSo+(ヘソプラス)」が開発された.これらを活用したヘソディムの実践により,土壌病害の効率的な管理が可能となり,農耕地の持続的生産性の維持・向上が図られる.

  • ―<w天>防除体系を中心に―
    外山 晶敏, 岸本 英成
    2025 年2025 巻20 号 p. 77-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    「みどりの食料システム戦略」に代表されるように,農業生産においても環境負荷の低減は世界的に重要な行動規範となった.ハダニ類は増殖が早く薬剤抵抗性も発達しやすい非常に管理が難しい害虫だが,果樹の生産においては,「天敵を主体としたハダニ防除」への取組が環境や生物多様性への影響という観点から病害虫防除全体を見直す良い入口となる.こうした背景を下に,果樹園にもとから生息する土着天敵と製品化された天敵製剤のダブルの天敵を合理的に活用するための“<w天>防除体系”が確立され,現在,リンゴ,オウトウ,ナシ,施設ブドウ,施設ミカンを中心に生産現場で普及が進められている.同体系のフレームワークは「天敵に配慮した薬剤の選択」「天敵にやさしい草生管理」「補完的な天敵製剤の利用」「協働的な殺ダニ剤の利用」の4つのステップから構成され,各樹種をはじめ,それぞれの地域や園の環境,栽培様式や管理方法にフィットした最適な形を探る技術と手順を提供する.体系導入の手引きにはマニュアルや標準作業手順書などが公開されている.今後,ハダニ問題の根本的解決とともに,環境と調和した果樹生産構築のきっかけになると期待される.

  • 片山 直樹, 馬場 友希, 池田 浩明
    2025 年2025 巻20 号 p. 89-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    農業と生物多様性の関係は,地域や気候,栽培管理の在り方に応じて複雑に変化するが,その実態は近年の研究によって初めて明らかになったものも少なくない.そこで本論文では,農地で生物多様性および生態系サービスを高めることのできる取組についてのミニレビューを行った.水田では生物多様性を保全できる取組についての研究事例が豊富であり,有機栽培,特別栽培,冬期湛水,ビオトープや江の設置などが生物の種数や個体数を高めることが明らかになった.これらの成果にもとづいて,農研機構は生物多様性を調査・評価するためのマニュアルを開発した.畑地や果樹園では日本の研究事例は少ないが,世界的には有機栽培などで生物の種数が増えることが示された.しかし,有機栽培をはじめとする生物多様性を保全できる取組の一部は,収量とのトレードオフが見られた.近年では生物の持つ生態系サービスを強化することで,収量を減らさないもしくは増やす取組についての研究も増えつつあり,農業の持続可能性を高めるための研究が今後さらに必要である.

  • 平野 清
    2025 年2025 巻20 号 p. 99-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    スマート技術を活用しつつ,無農薬・無化学肥料での持続的な放牧関連技術の導入実証を,島根県大田市の三瓶山の荒廃農地を含むエリアで行った.導入した技術は,荒廃農地再生技術,放牧期間延長技術,GPSガイダンスによる鶏ふん散布技術,放牧牛の位置看視技術,電気牧柵電圧監視技術であった.技術導入により,放牧地の面積は31 ha→64 haへ,放牧期間は182日→230日へ,放牧牛の頭数は30頭→53頭へ,それぞれ増加したが,放牧牛の位置看視技術等により,人員の増加無く2名で管理できた.これらスマート放牧体系は,荒廃農地の解消と農用地の省力的維持管理,自給飼料に基づく低コスト持続的家畜飼養体系に寄与できることから,今後さらなる技術発展と普及が期待される.

  • 眞田 康治
    2025 年2025 巻20 号 p. 109-
    発行日: 2025/03/01
    公開日: 2025/03/01
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    オーチャードグラスにおいて,水溶性炭水化物(WSC)の改良を育種目標として,遺伝資源のWSC含量を評価したところ大きな遺伝的変異が見られた.これらの遺伝資源を育種母材として農研機構北海道農業研究センターと雪印種苗株式会社との共同により中生新品種「えさじまん」を育成した.出穂始日は,「ハルジマン」と同日の6月2日で,早晩性は「中生の晩」である.地域適応性検定試験における乾物収量は,全場所平均で「ハルジマン」比104%でやや多収である.水溶性炭水化物含量は,場所および年間を通して「ハルジマン」より約3ポイント高い.繊維成分含量は,「ハルジマン」より低い.推定TDN含量は,「ハルジマン」より約2ポイント高く,TDN収量は「ハルジマン」比109%である.サイレージ発酵品質は,Vスコアが「ハルジマン」より高い.「えさじまん」サイレージを搾乳牛に給与したところ,産乳量が「ハルジマン」より4%多かった.「えさじまん」に引き続き,WSC含量の高い早生の「わせじまん」と極晩生「きたじまん」を育成した.これら一連の高WSC含量品種は,北海道と東北の自給飼料の生産性向上と高品質化に貢献できる.

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