COVID-19 はなかなか終息せず,またロシアのウクライナ侵攻も長期化の様相を呈しており,食料やエネルギーといった一次産品の価格上昇がインフレをさらに押し上げ,その結果,貿易やサプライチェーンの混乱が資材高騰を招き,日本の産業や国民生活に大きな影響を与えています.農業・食料の分野においても,穀物市場の混乱が価格上昇に直結し,「食糧安全保障」という言葉が当たり前のようにメディアに取り上げられるようになりました.農研機構では,農業・食品分野での「Society 5.0」の早期実現に向け,食糧自給率の向上や農産物・食品の産業競争力強化などに向けた研究開発を進めてまいりましたが,より一層その重要性が増してきていると感じます.
農研機構が 2021 年 4 月に策定した第5期中長期計画では,セグメント研究,プロジェクト型研究に加え,新たに基盤技術研究というタイプの研究を定義しました.基盤技術研究は,AI,ロボティクス,バイオテクノロジー,精密分析等の研究基盤技術と,統合データベースや遺伝資源等の共通基盤であり,各研究セグメントが研究を行う上での共通的なコア技術を強化することを狙ったものであります.「基盤」というのは,その上に色々なものが載る,それらをしっかりと支える,という意味ですから,先進性や汎用性が重要です.基盤技術研究本部では,AIやデータ,バイオ情報などの最先端の技術を駆使し,基盤技術の先鋭化に努めています.
基盤技術は,応用イメージが湧きにくいので,その特徴や適用範囲をしっかり理解して使っていただくための情報発信が重要と考えています.そういった観点から,今回は基盤技術研究本部で取り組んでいる基盤技術を,ミニレビュー等の形で紹介する特集号を組ませていただきました.農研機構内外の研究者におかれましては,各記事をご覧いただき,その概要や特徴をご理解いただくと共に,その活用を是非とも検討いただきたく,ご高覧方よろしくお願いします.本誌が契機となり,基盤技術研究本部と,様々な研究分野との連携・融合が進むことを期待しております.
理事(基盤技術担当) 中川路哲男