農研機構研究報告
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2023 巻, 13 号
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表紙・目次・編集委員会・奥付
巻頭言
総説
  • 伊藤 研悟, 伊達 康博, 川村 隆浩, 大城 正孝, 江口 尚, 小野 裕嗣
    原稿種別: 総説
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 3-22
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    昨今のSociety 5.0 及びポストコロナ時代において,研究現場ではリモート環境からデータ駆動型研究を加速させる高度な機器分析と情報連携基盤の開発が求められている.そこで農研機構では,リモート核磁気共鳴分光分析,データ駆動型解析及び機器分析データの一元管理をワンストップで提供する解析パイプラインを開発した.本パイプラインに合わせて長時間連続稼働が可能な自動前処理装置を利用することで,均質かつ均一な機器分析用試料の調製を可能にし,省人化・省力化を実現した.また,試料を約500 点セットが可能なオートサンプルチェンジャーを装着した溶液核磁気共鳴分光分析装置とリモート分析制御装置も導入し,簡便かつ安定なリモート分析の自動実行を可能にした.さらに,人工知能研究用スーパーコンピュータ「紫峰」と農畜産物のゲノムや成分などが格納された大容量の農研機構統合データベースを連携させることで,機器分析データの迅速なデータ駆動型解析とメタデータを含む機器分析データの一元管理を可能にした.この新たな基盤システムを利用することで,リモート環境にいる異分野の研究者同士がデータを介して繋がり,データ駆動型農業研究の促進や発展が期待される.

  • 小林 暁雄, 坂井 寛章, 桂樹 哲雄, 伊藤 研悟, 稲冨 素子, 江口 尚, 川村 隆浩
    原稿種別: 総説
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 23-33
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    農研機構内のプロジェクトや研究部門・センター毎に進められているバイオ研究課題では,データ管理や解析ツール開発が一元化しておらず,データの分散や個別化が問題となっている.これを解決するため,研究課題のニーズに基づきリソースを集約・重点化することにより資源の活用を効率化し,研究成果の最大化に繋げるためのプロジェクトが機構内組織横断的に進められている.本プロジェクトでは,機構の持つ高度計算資源を連携してオミクス情報を収集・解析し,研究データの来歴保証と研究の効率化を実現する解析パイプラインシステムの構築が取り組まれている.この計算資源には,機構内のゲノム解析サーバ及びスーパーコンピュータ「紫峰」を用いるとともに,ゲノムデータと解析されたデータを保存・機構内横断で提供する基盤として,農研機構統合DB を用いる.さらに,DDBJ Sequence Read Archive に準ずるメタデータを採用し,機構内で横断的にゲノムデータを解析・検索可能な解析パイプラインシステム を実現する. 本稿では,メタデータ入出力システムの詳細について解説するとともに,パイプラインシステムの現状と課題について議論を行う.

  • 田中 大介, 江花 薫子
    原稿種別: 総説
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 35-45
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    近年,農業技術や環境の急速な変化,人口増加などにより,遺伝資源の多様性が脅かされている.遺伝的な多様性保全は,貴重な資源を次の世代に伝えるための最も重要な課題のひとつである.したがって,遺伝資源を最適な条件下で長期にわたり維持・保管することが急務である.液体窒素を用いた超低温保存は,遺伝資源を維持する上で最も信頼性が高く,コスト効率とスペース効率が高く,安全な方法である.植物の茎頂分裂組織,菌糸体,胚,精子,精巣,卵巣および始原生殖細胞などの多様な生物材料に適用されているガラス化を基礎とした長期保存法について解説する.

原著論文
  • 桂樹 哲雄, 森 翔太郎, 十一 浩典, 石川(高野) 祐子, 小林 暁雄, 伊藤 研悟, 山本(前田) 万里, 川村 隆浩
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 47-61
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    農研機構では,2012-2015 年度に実施した機能性農林水産物・食品開発プロジェクトの成果物を元に,農林水産物が持つ機能性成分について文献情報と共に整理し,「機能性成分・評価情報データベース」として2018 年より公開している.一方,2019 年から,農研機構は島津製作所と共同で「食品機能性成分解析共同研究ラボ(NARO 島津ラボ)」を設置し,機能性農林水産物に関する様々な分析を実施してきた.また,農研機構内には戦略的イノベーション創造プログラム第2 期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(SIP2)の分析データも存在する.このたび農研機構では,機構内で得られた食品機能性成分データを一か所に集める狙いから,「機能性成分・評価情報データベース」,「NARO 島津ラボ」のデータ,SIP2 の成果等を集約し,「農研機構食品機能性成分統合データベース」を開発した.収録するデータには,公開情報だけでなく閲覧者を制限すべきクローズドデータが含まれるため,柔軟なユーザ認証機能を導入し,適切なアクセス管理を行えるようにした点に特徴がある.本データベースでは,データの属性に応じて検索結果をグループ化して表示するファセット検索機能やグラフ表示機能などを実装した.

  • 小越 将行, 中野 有加, 三宅 康也, 野田 晋太朗, 飯嶋 渡
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 63-69
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    近年の窒素肥料に関する問題として,施肥の蓄積による環境への悪影響と国際的な肥料価格高騰がある.対応策として土壌中の窒素状態に応じて施肥量を変える可変施肥がある.この土壌中の窒素量と関係の深い指標として知られる土壌腐植含有量を推定する研究として衛星画像を用いたものがあるが,撮影タイミングの制限や,雲量の影響も受ける.撮影の自由度が高いドローンの可視画像を用いて土壌腐植含量の目安となる表層の炭素量の推定に取り組んだ.可視画像は農研機構内圃場で2022 年3 月15,29 日に撮影した.炭素量は,2022 年3 月14 日に1 m メッシュで調査圃場の土壌を採取しNC アナライザーで測定した.画像から炭素量を推定する手法として3 つの特徴を有するフローを提案した. 1.画像上の紐と足跡の明度の閾値を判定し除去.2.1 m メッシュを2,3,5,10 m メッシュに統合しノイズの影響を評価し最適なメッシュサイズを決定.3.色相空間,土壌含水比と炭素量の関係を線形回帰で算出.以上のフローで,炭素量に対して自由度調整済み決定係数0.526 の推定式を算出できた.多様な条件の土壌の調査を進めることでさらなる精度を向上し施肥量低減のための技術開発の一助としたい.

ミニレビュー
  • 米丸 淳一, 伊藤 博紀, 内藤 裕貴, 江口 尚
    原稿種別: その他
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 71-74
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    気候変動により生じる作物生産の不安定化を解消するためには,様々な環境で栽培される作物の性能を明らかにする必要がある.そこで,様々な栽培環境を再現する高機能な人工気象器「栽培環境エミュレータ」に,作物形質を連続取得する「ロボット計測機器」を内蔵した「ロボティクス人工気象室」を構築し,栽培環境データおよび画像等の作物形質データを高速ネットワークによりスーパーコンピュータ「紫峰」と連携させAI 解析を可能にする「超精密農業研究基盤」を開発した.本研究基盤は,民間企業等の外部機関からも遠隔利用が可能であることから,幅広い協同研究に適しており品種,栽培法に関わる研究開発の加速化が期待される.

  • 江花 薫子
    原稿種別: その他
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 75-80
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    ジーンバンク事業は農業に関わる遺伝資源の探索収集,特性評価,配布と,遺伝資源に関する情報の管理および提供を行う事業として1985 年に開始された.扱っている生物遺伝資源は,関係する組織の改編を反映して変わってきており,現在は,植物,微生物と昆虫を含む動物である.現在,植物遺伝資源23 万点,微生物遺伝資源3 万7 千点,動物遺伝資源2 千点を保存し,年間約1 万3 千点の遺伝資源を教育および研究用に配布している.ジーンバンク事業の概要を述べるとともに,農研機構内の研究素材として利活用していただきたい各種の遺伝資源について紹介する.

  • ~裂莢性の消失を例に~
    高橋 有, 竹島 亮馬, 加賀 秋人
    原稿種別: その他
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 81-87
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    ダイズとラッカセイ以外の食用マメ科作物は,雑豆(ざっとう)と呼ばれる.雑豆はゲノム構造が単純な種を含み,かつ種多様性に富むことから,研究材料という点でダイズより優れているが,ダイズの育種素材(遺伝資源)として直接利用することはできない.しかし,雑豆から有用遺伝子の情報を引き出すことができれば,類似した遺伝的背景を保有するダイズの育種に応用できるはずである.本稿では,栽培化形質のうち裂莢性の消失を例に,ダイズ育種における雑豆の遺伝子情報の利用可能性を概説したい.

  • 熊谷 真彦, 坂井 寛章
    原稿種別: その他
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 89-97
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    近年のシーケンシング技術の進展により多量のゲノムデータが得られるようになり,同時に遺伝的多型と表現型との関連を解析するGenome Wide Association Study (GWAS) も盛んに行われている.これらの情報を誰もが簡単な操作で閲覧することを可能にし,また公開することでデータの利活用を促進することを目的としてウェブブラウザTASUKE の開発を行った.TASUKE は多サンプルのゲノムリシーケンスデータから得られる多型情報やGWAS の解析結果を幅広い解像度で情報量豊かに表示する.数百サンプル以上の一塩基多型や挿入欠失といった多型情報およびそれらの遺伝子への効果情報,デプス情報,遺伝子アノテーション情報,GWAS のマンハッタンプロット等を並列的に表示し,1 塩基対の解像度から最大2,000 万塩基対までの広い範囲の情報をスムーズに閲覧することが可能である.これにより,各サンプル間の関係を遺伝子から広域なゲノム領域のレベルで理解することができ,また,GWAS 結果から表現型多型の原因遺伝子の候補を探索することが容易になる.さらに,ゲノムデータの閲覧から得られた情報を実験で活用するため,任意の多型サイトや領域に対して,多型情報を考慮したプライマーの設計や系統樹作成等のさまざまな機能が実装されている.本TASUKE システムの概要を活用例と合わせて紹介する.

  • 十一 浩典, 関山 恭代
    原稿種別: その他
    2023 年 2023 巻 13 号 p. 99-105
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    メタボロミクスとは生物の代謝物を網羅的に調べ,それらを解析することで生命現象を捉えようとする研究手法である.一般的には,液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどの分離装置と質量分析計を組み合わせることで試料中に存在する代謝物を分離し,これらを一斉かつ網羅的に測定して代謝物の総体(メタボローム)情報を得た後,種々の解析方法を用いて得られた情報の意義を考察する.近年では,メタボロミクスの発展と共に培われた分析技術・解析技術を応用し,農産物・食品を対象とした研究が活発に行われており,本稿では農産物に含まれる機能性成分に主眼を置いて実施したメタボローム解析について述べる.まず農研機構が保有する来歴が明らかな農産物に含有される代謝物を75%エタノールで抽出し,これらをペンタフルオロフェニルプロピル(PFPP)カラムで分離後,Q-TOF/MS で各成分の保持時間,および質量情報を得た.続いて差分解析により試料間で差異が見られた成分を特定し,来歴情報に照らして差異の意義について考察した.解析結果の一部を紹介し,将来の展望について解説する.

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