農研機構研究報告
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短報
コーンヘッダを用いたトウモロコシ子実の高水分収穫が収量, かび毒濃度および生産コストに及ぼす影響
幸田 和也 篠遠 善哉内野 宙金井 源太上垣 隆一
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2023 年 2023 巻 14 号 p. 29-33

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Abstract

国産普通コンバインにコーンヘッダを装着し,慣行収穫時期よりも早期に,高水分でトウモロコシ子実を収穫することで,慣行水分での収穫に比べ倒伏,折損,脱落等の減収リスクや,子実のかび毒汚染リスクの低減をもたらす可能性を示した.一方で,高水分収穫では,乾燥時間の増加によりコストが増えるとともに,水分を含んだ茎葉によるコンバイン内の汚損のために,頻繁な清掃が必要となる.このため,高水分収穫の営農現場での適用場面は限定的であると考えられた.

緒言

国産濃厚飼料として期待されているトウモロコシ子実の収穫に対応した国産普通コンバインは,収穫時の子実水分として 25%程度が推奨されている.この子実水分に達するためには,従来のホールクロップサイレージ用トウモロコシの収穫適期である黄熟期からさらに 20~30 日程度の在圃期間を要するため,気象条件や虫害等による折損,倒伏,雌穂の脱落といった減収リスクは高まる(農研機構 2019 ).また,夏季が高温である東北以南の地域におけるトウモロコシの主要かび毒であるフモニシン(岡部 2010)は,受粉 4~6 週間後から蓄積が始まり,経時的に増加し(Bush et al. 2014 ),黄熟期を境に急激に上昇する(Uegaki et al. 2012).

減収リスクや子実のかび毒汚染リスクを軽減するためには,在圃期間を短縮し,推奨水分より高水分で収穫する方法が考えられるが,国産普通コンバインで主に利用されている「リールヘッダ」は,トウモロコシの茎葉も脱穀部に取り込むため,25%を超える水分で収穫するとコンバインへの負荷が大きい.一方,海外のトウモロコシ主産地で利用されているトウモロコシ子実収穫専用の「コーンヘッダ」は,トウモロコシの雌穂のみをコンバイン脱穀部に取り込むため,高水分で収穫してもコンバインへの負荷を抑えられると考えられる.国産普通コンバインに装着できるコーンヘッダは国内メーカー 1 社から 2019 年に発売されているが,コーンヘッダを用いて推奨水分よりも高水分で収穫した事例は報告されていない.以上を踏まえ,今回,国産普通コンバインにコーンヘッダを装着し,慣行収穫時期よりも早期に,高水分でトウモロコシ子実を収穫する試験を実施し,収量,かび毒濃度および生産コストに及ぼす影響について検討した.

材料および方法

試験は,2020 年に農研機構東北農業研究センター内(岩手県盛岡市)で行い,慣行水分収穫圃場(31 a,前作:乾田直播水稲,以下慣行区)と高水分収穫圃場(45 a,前作:畑作,以下高水分区)をそれぞれ1反復設けた.トウモロコシの品種は 36B08(パイオニア 106 日)を供試し,種子にチウラム水和剤を塗抹した.両区ともに,牛糞堆肥1 t / 10 a,化成肥料(N : P2O5 : K2O = 15 : 20 : 15)を N, P2O5, K2O の成分でそれぞれ 15, 20, 15 kg / 10 a 施用し,チゼルプラウにより粗耕起した後,パワーハローで播種床を造成した.慣行区,高水分区それぞれ 5 月 27 日,5 月 24 日に真空播種機(モノセム製 NG plus4)を用いて条間 75 cm,株間 17 cm で播種した.播種後の栽培管理は慣行法に従った.

収穫には国産普通コンバイン(クボタ製 WRH1000c)を供試し,コーンヘッダはタイ製のサードパーティ品(KIJ VANICH 製 3 条刈)を取り付けた.供試コンバインはトウモロコシ子実収穫に対応していないが,本試験ではトウモロコシ子実を想定して試作した試験用部品を脱穀部に取り付けた.なお,同改造機での収穫試験結果は,金井ら(2020)に示したが,一般的なコンバインとして十分な収穫精度であった.収穫は,慣行区を 10 月 19 日および 10 月 20 日,高水分区 を 9 月 23 日に行い,コンバイン全刈収量を調査した.収穫日は,立毛水分が慣行区で 25%前後,高水分区で 30~35%となるように設定した.収穫に先立って各区 3 か所で坪刈りし,雌穂長,粒数,百粒重,子実収量を計測した(調査日は慣行区:10 月 9 日,高水分区:9 月 22 日).収穫時の立毛状態及びコンバイン製品口での子実水分を穀物水分計(ケツト科学研究所製 PM650)で測定し,子実収量については水分 15%換算とした.収穫に合わせ,倒伏,折損,雌穂脱落の割合を計測した(調査日は慣行区:10 月 18 日,高水分区:9 月 22 日).試験区内の 5 地点における 10 m × 1 条について全個体数を計測した後,倒伏,折損,雌穂脱落の生じている個体数を計測した.なお,折損は雌穂着生節よりも下部で折れたものとした.慣行区,高水分区の各コンバイン収穫物からランダムに採取した子実を縮分した後,70℃で 72 時間以上乾燥し,粉砕したサンプル(n = 1)について,液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC / MS / MS 法)によりデオキシニバレノール(DON),ニバレノール(NIV),ゼアラレノン(ZEA),フモニシン(B1 + B2 + B3 : FUM)濃度を測定した.

圃場の一部を用いて,慣行区と高水分区におけるコンバイン収穫時の頭部損失割合,脱穀選別損失割合,収穫子実の損傷率(以下,損傷率)を測定した(調査日は慣行区:10 月 20 日,高水分区:9 月 23 日).測定区間は 3 条× 5 m(助走区間は 15 m)とし,各区 5 測定区間で測定した.作物条件による影響を除くため,測定区間ではあらかじめ落穂,折損株を取り除いた.コンバインの収穫速度は,試走に基づき,機体に無理のない速度として,慣行区で 1.2 m / s,高水分区で 0.8 m / s 程度を目安とした.頭部損失は前述の測定区間内において 3 条 × 1 m を 3 か所ずつ測定した.脱穀選別損失は,前述の測定区間の排わら・排塵口からの排出物を全量採取して測定した.損傷率は前述の測定区間の収穫物を,均分器を用いて 100 g以下の試料3区として,割れや欠けがある穀粒を手作業にて選別し,その割合を測定した.

コンバイン収穫試験に用いた部分を除いた慣行区 25.4 a,高水分区 42.3 a で収穫作業時間及び燃料消費量を計測した.燃料消費量は,作業前に,燃料タンクの一定レベルまで燃料を満たし,作業後に同レベルまで燃料を補給し,その補給量を計測した.

収穫子実を供試し,乾燥試験を行った.乾燥機には循環式乾燥機(金子農機製 RTM250-XLD5)を用い,小麦用の設定で運転し,穀物水分計の測定により,仕上水分を 15%とし,乾燥所要時間を記録した.灯油消費量を乾燥機内のバーナー配管途中に積算流量計(オーバル製ケロメイト LSN39P) を設置し測定した.電力消費量を,配電盤に計測器(富士電機システム製普通電力計 F31F)を設置して測定した.

結果および考察

収量構成要素及びコンバイン全刈収量を表 1 に示す.収穫時の立毛状態での子実水分は慣行区 24.4%,高水分区 32.2%であった.

倒伏,折損,雌穂脱落の合計割合は,高水分区が 1.9%で,慣行区の 12.8%を大きく下回った(図 1).在圃期間が慣行区に比べ短縮されることで,気象条件や虫害等の影響が抑えられたためだと考えられる.一方,コンバイン収穫時の損失割合等は図 2の通りで,高水分区では,損失割合,損傷率が慣行区より高い傾向が見られた.高水分区では,茎葉も高水分で重く,子実を風力選別することが難しいほか,子実がやわらかく,損傷も受けやすいため,コンバインの選別性能を十分に発揮できなかったと考えられる.

坪刈収量をその圃場で得られる最大の収量と仮定し,コンバイン全刈収量との差を,収穫作業前の雌穂の脱落を含む収穫損失と捉え,坪刈収量に対する割合(収穫損失率)を算出すると,慣行区で 15.9%,高水分区で 13.3%となり,その差は 2.6%に留まった.高水分収穫では,上記の通り,収穫損失につながる倒伏,折損,雌穂脱落が低減される一方で,コンバイン収穫時の損失が高まるため,最終的な収穫損失率は,慣行水分収穫と大きな差を生じなかったと考えられる.

かび毒は,DON, NIV, ZEAについては慣行区,高水分区ともに検出されず,FUM の濃度は高水分区が 1.7 mg / kg で,慣行区の 8.5 mg / kg を下回った.Uegaki et al.(2012)で示されている通り,黄熟期以降の高水分区の収穫期から慣行区の収穫期にかけて,フモニシン濃度が急上昇したものと考えられる.

乾燥試験の結果概要を表 2 に示す.乾減率は慣行区で 1.6%/ h,高水分区で 1.5%/ h となり,概ね同程度の能率で乾燥できたが,初期水分の違いにより,乾燥所要時間は慣行区の 6.1 時間に対し,高水分区は 2 倍以上の 14.6 時間を要した.

慣行区と高水分区のコスト差に影響する収穫作業時間,コンバインの燃料消費量,乾燥機の燃料消費量,電力消費量,およびその時のコスト差は表 3 の通りで,全てで高水分区が慣行区を上回った.これら高水分区での追加コストは収穫工程では 388.8 円/ 10 a,乾燥工程では 1.6 円/ kg(水分 15%換算重による)と試算された.なお,乾燥工程のコストは固定費と変動費からなり,1 kg(水分 15%換算)当たりの固定費は処理量や収穫物の乾燥前容積によって若干変動すると考えられるが,本稿では 1 kg当たりの固定費を慣行水分収穫,高水分収穫によらず一定とし,変動費である光熱動力費の差から追加コストを試算した.

以上の結果を基に,高水分収穫の費用対効果を検討する.本試験で得られた収穫損失率から,その圃場で得られる最大の収量(水分 15%換算)を X(kg / 10 a),販売単価をP(円/ kg)としたとき,慣行水分と高水分収穫の販売収入の差は,[(1 - 0.133) PX -(1 - 0.159) PX]と表すことができ,高水分収穫により,0.026PX 円/ kgの収入増加が見込まれる.一方,慣行水分時の乾燥コストを D(円/ kg)としたとき,高水分収穫の乾燥工程の追加コスト(円/ 10 a)は[(1 - 0.133) (D + 1.6) X-(1 - 0.159) DX],即ち(0.026D+1.4)X となり,収穫工程の追加コストと合わせて,高水分収穫による追加コストは[388.8+(0.026D + 1.4) X]円/ 10 aと見込まれる.

例えば,X を 1,000 kg / 10 a,P を子実用トウモロコシ生産の先進地である北海道での生産者価格である 35 円/ kg(荒木 2019),Dを飼料用米の乾燥調製コスト(恒川 2016)を踏まえた 20 円/ kgとすると,高水分収穫による収入増は 910 円/ 10 a,追加コストは 2,308.8 円/ 10 a と試算される.このように,子実用トウモロコシ生産・流通の実態等を踏まえれば,本試験から得られた高水分収穫による収穫損失の低減効果による収入増では,高水分収穫による追加コストをまかなうことができないと考えられる.

また,高水分収穫では,コンバイン内に,水分を多く含んだ茎葉残渣が大量に付着することが確認された.これはコンバインの性能に影響を与えるほか,作業中に詰まりなどの不具合を頻発させる可能性があり,頻繁な清掃も必要になることから,営農現場における高水分収穫の実施に,大きな支障となると考える.

以上,本稿では,トウモロコシ子実の早期・高水分収穫について,単年度試験の結果ではあるものの,減収リスク,かび毒汚染リスクの低減をもたらす可能性を示した.一方,費用対効果,コンバイン内汚損の面から,営農現場での適用場面は限定的であり,国産普通コンバインにコーンヘッダを装着した際の収穫水分の目安は,リールヘッダでの収穫時と同様に,立毛状態で 25%程度と考える.そのため今後は,従来の在圃期間を確保した上で,虫害等による折損,倒伏,雌穂の脱落および虫害箇所からのかび毒汚染を低減させるため,殺虫剤散布などの技術開発を検討する必要がある.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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