農研機構研究報告
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原著論文
ウメ新品種‘麗和’と‘和郷’
八重垣 英明 末貞 佑子山口 正己土師 岳澤村 豊安達 栄介山根 崇嘉鈴木 勝征内田 誠
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2023 年 2023 巻 14 号 p. 9-18

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Abstract

‘麗和’と‘和郷’は果樹茶業研究部門において育成されたウメ新品種である.‘麗和’は 1998 年に‘加賀地蔵’に ‘月知梅’を交雑し育成した実生から,‘和郷’は‘剣先’に選抜実生の MM-43-22 を交雑し育成した実生から選抜したウメ品種である.‘麗和’と‘和郷’は 2008 年からウメ第 3 回系統適応性検定試験に,ウメ筑波 12 号とウメ筑波 14 号として供試し,2020 年 2 月の令和元年度果樹系統適応性検定試験成績検討会で新品種候補にふさわしいとの合意が得られ,2022 年 8 月 17 日に登録番号 29369 号および 29370 号として種苗法に基づき品種登録された.‘麗和’と‘和郷’ともに花弁は白色であり,‘麗和’は八重で,‘和郷’は一重である.‘麗和’と‘和郷’ともに花粉を有し、自家和合性で結実良好である.育成地において,開花期はそれぞれ 3 月 12 日と 3 月 11 日であり,収穫期はそれぞれ 6 月 22 日と 6 月 18 日である.1 樹当たりの収量は 11~13 年生樹の平均でそれぞれ 22.7 kg と 61.7 kg である.果実重はそれぞれ 38 g と 34 g 程度であり,果汁の滴定酸度は両品種ともに 6.7%程度である.核重はそれぞれ 2.7 gと 1.7 g,核重率はそれぞれ 7.1%と 4.9%であり,‘和郷’はウメ品種の中では極めて核重率が低い.ヤニ果の発生は,両品種ともに少ない.‘麗和’の加工適性は,梅干しでは‘南高’より劣る評価となったが‘白加賀’とは同程度であった.梅ジュースでは酸味が強く渋味があった.‘和郷’の加工適性は,梅干しではヤニ果が少ない時に‘白加賀’より良い評価であるが、多いと評価が下がった.梅ジュースでは‘白加賀’と‘南高’と同等かやや低い評価であった.

緒言

ウメの収穫量は年次変動が大きく,それに伴い卸売価格の年次変動も大きい事が問題となっている(農林水産省 2022a2022b).ウメは主要果樹の中で最も早い開花期であるため,低温による雌ずいの枯死や訪花昆虫の活動低下などにより,結実が少なくなりやすく収穫量の年次変動が大きくなる傾向がある.さらに,‘南高’や‘白加賀’など主要品種に自家不和合性品種が多いことも結実が不安定になりやすい要因となっている(八重垣 2013).また,塩分を抑えた調味梅干しの発売により大きい果実が求められるようになり,販売価格も大きい果実が高い傾向にある.そのため自家和合性を有し,大玉として販売されている‘南高’や‘白加賀’程度の大きさの果実となる新品種が求められている.

農研機構ではこれまで,‘加賀地蔵’(山口ら 2002a),‘八郎’(山口ら 2002b),‘露茜’(八重垣ら 2012)および‘翠香’(八重垣ら 2014)の 4 品種を育成しているが,自家和合性品種は‘八郎’だけである.‘八郎’の果実は 20 g 程度で,‘南高’および‘白加賀’より小さい.このため,自家和合性を有し果実の大きいウメ品種‘麗和’および‘和郷’を育成したので,その育成経過と品種特性の概要を報告する.

育成経過

農林水産省果樹試験場(現 農研機構果樹茶業研究部門)において,1998 年に雄性不稔性である‘加賀地蔵’に開花期がやや遅く八重咲きで自家和合性遺伝子を有する‘月知梅’を交雑し,1999 年に自家和合性の‘剣先’と果実がやや大きく果形が整うが自家不和合性の選抜系統 MM-43-22 を交雑した(図 1).それぞれ得られた種子を交雑年の秋季に播種した.発芽した実生を苗圃で 1 年間養成を行った後,‘加賀地蔵’ב月知梅’から得られた実生は 1999 年 12 月に個体番号 MM-56-6 を,‘剣先’× MM-43-22 から得られた実生は 2001 年 2 月に個体番号 MM-63-11 を付して育種圃場に定植した.初結実後継続して栽培特性および果実品質の調査を行った結果,両個体ともに自家和合性を有し,果実が大きく,ヤニ果の発生が少なかったことから 2007 年に一次選抜した.2008 年より,それぞれウメ筑波 12 号およびウメ筑波 14 号の系統名を付してウメ第 3 回系統適応性検定試験に供試し,果実品質,栽培特性等について検討した.その結果,2020 年 2 月の令和元年度果樹系統適応性検定試験成績検討会(落葉果樹)において新品種候補として適当であるとの結論を得た. ‘麗和’および‘和郷’と命名し,2020 年 4 月 30 日に種苗法による品種登録出願を行い,2022 年 8 月 17 日に登録番号 29369 号および 29370 号として品種登録された.

農研機構以外の系統適応性検定試験の参加場所は以下のとおりである(系統適応性検定試験終了時の名称).

茨城県農業総合センター園芸研究所,群馬県農業技術センター,埼玉県農業技術研究センター,石川県農林総合研究センター農業試験場能登特産物栽培グループ,福井県園芸試験場,和歌山県果樹試験場うめ研究所,鳥取県園芸試験場,徳島県立農林水産総合技術支援センター,愛媛県農林水産研究所果樹研究センター,宮崎県総合農業試験場(‘麗和’のみ参加).

埼玉県農業技術研究センターは 2011 年に両品種の,鳥取県園芸試験場は 2014 年に両品種の,茨城県農業総合センター園芸研究所および愛媛県農林水産研究所果樹研究センターは 2016 年に‘和郷’の,石川県農林総合研究センター農業試験場能登特産物栽培グループは 2017 年に両品種の,福井県園芸試験場は 2018 年に両品種の試験を中止した.

果樹茶業研究部門における育成担当者と担当期間は以下のとおりである.

山口正己(1998 年 1 月~2009 年 3 月),土師 岳(1998 年 1 月~2005 年 10 月),八重垣英明(1998 年 1 月~2008 年 3 月,2011 年 4 月~2020 年 3 月),末貞佑子(2004 年 8 月~2020 年 3 月),安達栄介(2008 年 4 月~2011 年 3 月),山根崇嘉(2009 年 4 月~2012 年 3 月),澤村 豊(2012 年 4 月~2018 年 9 月),鈴木勝征(2002 年 1 月~2004 年 3 月),内田 誠(2004 年 4 月~2006 年 3 月).

特性の概要

1.育成地における特性

育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法に従い, 結実の安定した 2017~2019 年の 3 年間果樹茶業研究部門において,‘白加賀’および‘南高’を対照品種として‘麗和’および‘和郷’の樹体特性と果実形質の調査を行った.調査を行った全ての品種は共台に接ぎ木し,‘麗和’および‘和郷’は 2019 年時点で 13 年生の 2 樹を,‘白加賀’および‘南高’は 2019 年時点で 27 年生の 2 樹を用いた.

調査を行った形質のうち,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「多」~「中」のように,~で結び,「中」と「高」の間の特性値は「やや高」のように表現した.数値化された形質については,品種と年を要因とする 2 元配置分散分析を行い,F検定で品種間平均平方が有意になった形質のみ,最小有意差法により平均値間の有意差を検定した.月日で表示された形質については,1 月 1 日からの日数により数値化して同様に解析した.

1)樹性

育成地における‘麗和’,‘和郷’,‘白加賀’および‘南高’の樹の特性を表 1 に示した.

樹姿は,‘麗和’は直立と開張の中間の「中間」で,‘和郷’は「やや開張」である.樹勢は,‘麗和’は「やや強」で,‘和郷’は「中」である(表 1図 2AB).短果枝の着生は,‘麗和’,‘和郷’ともに「中」から「やや多」で‘白加賀’より多い.花芽の着生は,‘麗和’,‘和郷’ともに「多」で,‘南高’と同等である.

図2. ‘麗和’(A) と‘和郷’(B) の樹姿

開花盛期は,‘麗和’は 3 月 12 日,‘和郷’は 3 月 11 日であり,‘南高’と‘白加賀’の間であった.‘南高’とは有意な差は無いが,‘白加賀’より有意に早い.

花弁の色は,‘麗和’,‘和郷’ともに白色である.花弁の数は,‘麗和’は八重(図 3),‘和郷’は一重である.‘麗和’,‘和郷’ともに花粉は多く,自家結実して結実良好である(図4).Yaegakiら(2001)の PCR 法により S 遺伝子型を判定したところ,‘麗和’,‘和郷’ともにS6Sf となり,自家和合性遺伝子(Sf)を有している(データ省略).自家不和合性の‘白加賀’と‘南高’とは異なり,受粉樹は不要である.

図3. ‘麗和’の開花状況

図 4. ‘麗和’(A) と‘和郷’(B) の 結実状況

収穫盛期は,‘麗和’は 6 月 22 日,‘和郷’は 6 月 18 日であった.‘麗和’は‘南高’と同時期であり,‘和郷’は‘白加賀’より 5 日遅く,‘南高’より 4 日早かった.

1 樹当たりの収量は‘麗和’は 22.7 kg,‘和郷’は 61.7 kgであった.‘白加賀’,‘南高’は樹齢が進んでいるが,‘和郷’が有意に多かった.

2)果実特性

育成地における‘麗和’,‘和郷’,‘白加賀’および‘南高’の果実の特性を表 2 に示した.

果形は,‘麗和’は「円」,‘和郷’は「短楕円」である.果実の大きさと形の揃い(玉ぞろい)は,‘麗和’は「やや良」から「中」,‘和郷’は「良」から「やや良」である(表 2, 図5).

図 5. ‘麗和’(A) と‘和郷’ (B) の果実

果実重は,‘麗和’は 37.6 g,‘和郷’は 34.4 gであった.‘麗和’は‘白加賀’,‘南高’と有意な差は無く,‘和郷’は‘白加賀’と同程度で‘南高’より有意に小さい.‘麗和’,‘和郷’ともに大玉の品種である.

果皮の地色は,‘麗和’,‘和郷’ともに淡緑であった.果皮の着色は,‘麗和’は「やや多」から「少」,‘和郷’は「中」から「少」であった.果肉色は,‘麗和’,‘和郷’ともに淡黄緑であった.

果汁の滴定酸度は,‘麗和’,‘和郷’ともに 6.7%で,‘白加賀’,‘南高’と有意な差は無かった.

核重は,‘麗和’は 2.7 g,‘和郷’は 1.7 gであった.‘麗和’は‘南高’より有意に小さく‘白加賀’と同程度で,‘和郷’は‘白加賀’,‘南高’より有意に小さい(図 6).果実重に占める核重の割合である核重率は,‘麗和’は 7.1%,‘和郷’は 4.9%であった.‘麗和’は‘白加賀’,‘南高’と同程度であった.‘和郷’は‘白加賀’,‘南高’より有意に低く,果樹茶業研究部門で保存している品種の中でも極めて低い(八重垣ら 2003).

‘麗和’,‘和郷’ともに果実の外までヤニが漏出する外ヤニ果および果実の内部にヤニが留まる内ヤニ果のいずれもほぼ発生しなかった.

図 6. ‘和郷’(左)と‘南高’(右)の核

2.系統適応性検定試験における特性

2008 年からウメ第 3 回系統適応性検定試験に供試し,育成地の果樹茶業研究部門を含め‘白加賀’,‘南高’を対照品種として育成系統適応性検定試験・特性検定試験調査方法により特性を調査した.

2017 年~2019 年に評価された‘麗和’と‘和郷’の樹の特性を表 3 に,果実の特性を表 4 に示した.なお調査を行った形質のうち,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「多」~「中」のように,~で結び,「中」と「高」の間の特性値は「やや高」のように表現した. 愛媛県では 2 年の値しか得られなかった形質もあったが,その場合は 2 年の平均値を用いた.

数値化された形質については,品種と場所を要因とする 2 元配置分散分析を行い,F 検定で品種間平均平方が有意になった形質のみ,最小有意差法により平均値間の有意差を検定した結果を‘麗和’については表 5 に,‘和郷’については表 6 に示した.月日で表示された形質については,1 月 1 日からの日数により数値化して同様に解析した.

1)樹性

樹姿は,‘麗和’は「中間」と「開張」が最も多く,‘和郷’は 4 場所で「やや直立」から「開張」まで評価が分かれた.樹勢は,‘麗和’は「強」から「中」~「弱」まで評価が分かれ,‘和郷’は「中」が最も多かった.短果枝の着生および花芽の着生は,‘麗和’,‘和郷’ともに「中」が最も多かった.

開花盛期は,‘麗和’は参加 7 場所において 2 月 16 日から 3 月 16 日までの差があった.参加場所の平均は 3 月 6 日で,‘南高’より有意に 8 日遅く,‘白加賀’と同時期であった.‘和郷’は参加 4 場所において 3 月 1 日から 3 月 11 日までの差があった.参加場所の平均は 3 月 4 日で,‘南高’より 5 日遅く,‘白加賀’より 3 日早かったが有意差はなかった.

花粉は,‘麗和’,‘和郷’ともに「多」の評価が多かった.

収穫盛期は,‘麗和’は参加7場所におい て5 月 23 日から 6 月 25 日までの差があった.参加場所の平均は 6 月 10 日で,‘白加賀’より 5 日遅く,‘南高’より 2 日早かった.‘和郷’は参加 4 場所において 6 月 10 日から 6 月 24 日までの差があった. 参加場所の平均は 6 月 15 日で,‘白加賀’より 6 日遅く,‘南高’より 3 日早かった.‘麗和’,‘和郷’ともに‘白加賀’と‘南高’とは有意差はなかった.

1樹当たりの収量は‘麗和’は 16.3 kg,‘和郷’は 33.0 kgであった.‘白加賀’,‘南高’の樹齢が進んでいる場所が多いため対照品種との有意差はなかったが,‘和郷’が‘麗和’より収量が多い傾向であった.

2)果実特性

果形は,‘麗和’は「円」が,‘和郷’は「楕円」が最も多かった.玉ぞろいは,‘麗和’は「やや良」が,‘和郷’は「良」~「やや良」が多かった.

果実重の場所別平均は,‘麗和’は 12.0 g から 37.6 g の差があり,四国及び九州地方で小さくなる傾向があった.参加場所の平均は 26.4 g で,‘白加賀’より 0.9 g 小さいが有意差はなく,‘南高’より 7.7 g 有意に小さかった.‘和郷’は 26.5 g から 34.4 g の差があった.参加場所の平均は 29.5 g で,‘白加賀’より 1.2 g 小さいが有意差は無く,‘南高’より 8.1 g 有意に小さかった.

果皮の地色は,‘麗和’は「淡緑」が多く,‘和郷’は 4 場所で評価が分かれた.果皮の赤い着色は,‘麗和’は「少」が,‘和郷’は「中」~「少」が多かった.果肉色は,‘麗和’,‘和郷’ともに「淡黄緑」が多かった.

果汁の滴定酸度は,参加場所による変動はあるが平均で‘麗和’が 6.0%,‘和郷’が 6.2%であり,‘白加賀’,‘南高’と有意差はなかった.

核重は,‘麗和’は 1.3 g から 3.7 g までの差があった.参加場所の平均は 2.7 g で‘白加賀’より 0.2 g 小さいが有意差はなく,‘南高’より 1.0 g 有意に小さかった.‘和郷’は 1.7 g から 2.7 g の差があった.参加場所の平均は 2.0 gで‘白加賀’より 1.1 g,‘南高’より 1.7 g 有意に小さかった.核重率は,‘麗和’は 7.1%から 15.2%の差があった.参加場所の平均は 10.5%で‘白加賀’と‘南高’とは有意差はなかった.‘和郷’は 4.8%から 10.2%の差があった.参加場所の平均は 6.8%で‘白加賀’より 3.2%,‘南高’より 3.8%有意に低かった.

外ヤニ果の発生率は,‘麗和’は 0%から 7.5%の差があった.参加場所の平均は 1.6%で‘白加賀’より 10.0%有意に低いが,‘南高’とは有意差はなかった.‘和郷’は 0%から 3.3%の差があった.群馬県では 2017 年および 2018 年は 0%であったが,2019 年は 10%と高くなった.参加場所の平均は 1.5%で‘白加賀’と‘南高’とは有意差はなかった.

3)加工適性

2018 年と 2019 年の‘麗和’と‘和郷’の評価が揃う 3 場所の果実の梅干しおよび梅ジュース(糖抽出果汁)への加工特性を表 7 に示した.なお調査を行った形質のうち,年次により成績が変動した離散的尺度の形質は,「多」~「中」のように表現した.

梅干しへの加工適性において,‘麗和’は,果皮の硬さは「やや硬」~「硬」が多く,果肉の滑らかさは「滑」から「やや粗」,核の大きさは「小」から「中」,食味は「良」~「中」から「中」~「不良」の差異があり,総合的な品質は「中」~「やや不良」が多かった.‘南高’との比較では果皮が硬く,果肉がやや粗く,核はやや小さく,食味と総合的な品質はやや劣る評価であった.しかし,‘白加賀’との比較では同等の評価が多かった.

‘和郷’は,果皮の硬さは「軟」~「やや軟」から「中」~「やや硬」まで評価が分かれ,果肉の滑らかさは群馬県で「滑」~「やや粗」と年次によって評価が分かれた.核の大きさは 3 場所ともに「小」であった.食味と総合的な品質も年次によって評価が分かれた.群馬県では 2018 年は評価が高かったが,2019 年にヤニ果が多くなり評価が低くなった.

梅ジュースへの加工において,香りは‘麗和’と‘和郷’ともに‘南高’と‘白加賀’と同じかやや弱い評価が多かった.酸度の 3 場所の平均は‘麗和’が最も高く,次いで‘和郷’と‘白加賀’が同じで,‘南高’が最も低かった.‘麗和’は試飲して酸味が強いというコメントも多かった.しかし,‘麗和’は他の品種と生果の果汁滴定酸度において有意差はなく,加工後の果実の残存率もやや高くなっており,酸味が強くなる原因は今のところ不明である.総合的な品質は‘和郷’は‘白加賀’と‘南高’と同等かやや低い評価であった.‘麗和’は試飲して渋味を感じることがあるため,より低い評価となる傾向であった

3.適応地域および栽培上の留意点

系統適応性検定試験に最後まで参加した場所がある地域は,‘麗和’は関東,近畿,四国,九州地方で,‘和郷’は関東,近畿,四国地方であるため,それ以外の地域での適応性は明らかになっていない.‘麗和’の果実重が四国,九州地方で関東,近畿地方より小さかった.これは,徳島県では 4 品種とも同日に収穫していること,愛媛県では試験樹の移植により樹勢が低下していたことが影響していると考えられる.宮崎県では‘麗和’は 21.1 g,‘白加賀’は 21.0 g と同等の果実重であるため,四国,九州地方では小玉であると断定できる状況ではない.

‘麗和’,‘和郷’ともに,自家和合性品種の導入により結実不良の改善を目指すウメ産地での普及が期待される.また,雄性不稔性で開花期が遅い品種(‘白加賀’,‘古城’,‘露茜’など)を栽培しているウメ産地において受粉樹として普及が期待される.

‘麗和’,‘和郷’ともに自家和合性であるため結実良好である.ウメ栽培において摘果はほぼ行われないため,結実が多すぎると果実重の減少,枝の下垂,樹勢の低下などが起きやすくなるが,翌年の花芽形成にはほぼ影響しない.育成地では‘和郷’で枝の下垂や樹勢低下の傾向が見られた.そのような傾向が見られるときは,剪定の際に強めの切り返しを行うなど樹勢の維持に努める必要がある。

‘麗和’の花の雌ずいは基本的には 1 本であるが, 2~8 本程度の雌ずいを有する花が一部に見られる.全ての雌ずいが結実した場合には果実が密着するため,生育途中で一部の果実が生理落果することがある.落果しない場合は小玉果になりやすい.

黒星病やかいよう病などには感受性であるが,通常の薬剤散布で防除できる.

4.命名の由来

‘麗和’は円形で整った綺麗な果実で自家和合性を有することから,‘和郷’は自家和合性を有し,‘梅郷’の後代品種であることから命名された.

謝辞

本品種の育成に当たり,系統適応性検定試験を担当された関係公立試験研究機関の各位,ならびに多大のご協力を頂いた歴代職員,研修生の各位に心から謝意を表する.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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