農研機構研究報告
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ミニレビュー
緑肥の土壌改善機能と化学肥料代替効果
唐澤 敏彦
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2025 年 2025 巻 20 号 p. 21-

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要旨

土壌管理の重要性は国際的に広く認識されており,わが国でも,農地への堆肥投入量が年々減少する中で,土づくりへの関心が高まっている.また,近年の化学肥料価格の高騰により,生産コスト増加が課題となっている.さらに,持続可能な食料システムに関する日本や欧州委員会の戦略において,化学肥料の使用量を減らすことが目標に設定された.このような観点から,有機物を活用した土づくりと施肥削減に大きな期待が寄せられている.本ミニレビューでは,輸送コストと施用労力の面で有利な有機物である緑肥を用いた土づくりと減肥に焦点を当てる.まず,作土の環境改善(有機物蓄積,カバークロップ効果による侵食防止,土壌生物性改善)と下層土の環境改善(物理性)に役立つ緑肥の機能を紹介する.次に,緑肥が主作物に養分(窒素,カリウム,リン)を供給するメカニズムを紹介する.最後に,緑肥の効果に影響を与える要因(作物種,すき込み時の生育ステージ,後作物の播種までの期間)を検討する.緑肥導入が土壌の質や主作物の生産性に及ぼす影響を定量的に示すことにより,今後,緑肥の利用が拡大し,化学肥料使用量の削減と土壌の質の改善に寄与することが期待される.

Summary

The importance of soil management is widely recognized internationally, and in Japan, interest in soil improvement is growing as the amount of compost applied to farmland decreases year by year. In addition, the recent rise in the price of chemical fertilizers has led to an increase in production costs. Furthermore, the strategy of Japan and the European Commission for sustainable food systems has set a goal of reducing the amount of chemical fertilizer used. From this perspective, there are high expectations for soil improvement using organic matter and reducing fertilizer use. In this mini-review, we focus on soil improvement and fertilizer reduction using green manure, an organic matter that is advantageous in terms of transportation costs and application labor. First, we introduce the functions of green manure, which are useful for improving the environment of the plowed soil (organic matter accumulation, prevention of erosion through the effect of cover crops, improvement of soil biology) and the environment of the subsoil (physical properties). Next, we indicate the mechanism by which green manure supplies nutrients (nitrogen, potassium, phosphorus) to the main crop. Finally, we consider factors that affect the effectiveness of green manure (crop species, growth stage at the time of incorporation, and period until sowing of the succeeding crop). By quantitatively demonstrating the impact of introducing green manure on soil quality and the productivity of main crops, it is expected that the use of green manure will expand in the future, contributing to a reduction in the use of chemical fertilizers and improved soil quality.

はじめに

過剰な耕起や化学肥料の使用,単作などを行う農法は,環境と作物生産性に悪影響を与えているとされる(Adetunji et al. 2020).わが国では,農地への堆肥投入量が年々減少する中,土壌管理の重要性が再認識され,土づくりへの関心が高まっている(新良 2016安岡 2021).2011年のFAO主導の取り組みであるグローバル・ソイル・パートナーシップの設立,2015年の国連サミットでのSDGsの提唱,2018年のG20農業大臣宣言での土壌の持続可能な利用を促進するための国家政策の奨励などが示すように,国際的にも土壌管理の重要性が認識されている.また,近年の世界的な肥料需要の増加と供給減少による化学肥料価格の高騰により,農産物の生産コスト上昇の抑制が大きな課題となっている(松八重 2021三島 2020).さらに,食料システムが化学農薬や化学肥料の使用により環境に多大な負荷を与えているという観点から,持続可能な食料システムの構築が求められている.例えば,日本のみどりの食料システム戦略(農林水産省 2021)や欧州委員会のFarm to Fork戦略(European Commission 2020)では,化学肥料の使用削減を目指しており,その方策として,有機物による化学肥料代替などが示されている.また,化学農薬の使用量低減に向け,有機物を利用した土壌病害や有害線虫の制御技術の開発にも期待が寄せられている(Toyota 2021).

緑肥は,次の作物の肥料として使用するための作物を導入する技術(またはその目的で栽培された作物)であり,古くから土壌の肥沃度を維持・向上するために使用されてきた.しかし,化学肥料の普及により,それらの利用機会は減少している.また,堆肥などの他の有機物と同様に,緑肥の肥効を知ることも簡単ではない(小柳,棚橋 2010).そのため,緑肥の導入が,必ずしも次作物の減肥に結びついているわけではなく,緑肥の肥効を把握して,減肥に結びつけることが求められる.一方で,緑肥は土壌の物理性(Blanco-Canqui and Ruis 2020),化学性(Wood and Bowman 2021),生物性(Kim et al. 2020)の改善に有益とされることから,その肥料効果以外の効果についても,有効に利用することが期待されている.

本ミニレビューでは,緑肥のもつ土壌環境の改善と作物への養分供給の機能を示すとともに,それぞれの機能を活用するために有効な技術を紹介する.

緑肥が土壌の性質に及ぼす影響

1.有機物の分解と蓄積

緑肥を土壌にすき込むと,土壌中の動物や微生物の作用を受けて,徐々に分解される.性質の異なるイネ科とマメ科の緑肥について,分解メカニズムやすき込み後の有機物蓄積を始めとする様々な土壌改良効果を比較検討した.すき込んだ緑肥の分解機構に関しては,土壌の物理分画と微細形態観察を用いた土壌動物の排泄物のサイズ別の定量に基づいて,ヘアリーベッチ(マメ科)の分解には中型動物が,エンバク(イネ科)の分解には大型動物が関与していることが示唆された(Nakatsuka et al. 2020).有機物分解を触媒する土壌酵素の活性は,様々な有機物の投入後に急速に高まるため,土壌の質の敏感な指標の候補ともされ,緑肥のすき込みでも,様々な土壌酵素の活性の上昇がみられた(Bandick and Dick 1999Karasawa et al. 2015Karasawa and Takahashi 2015).一方で,土壌に施用された有機物からの窒素無機化率を改善するには,土壌酵素活性を改善するよりも長い有機物施用期間が必要であることが示唆されている(唐澤ら 2018a).

緑肥導入による土壌への有機物蓄積効果を定量的に把握するため,すき込み1年後の土壌中に残存する緑肥由来の炭素量をガラス繊維ろ紙法(小柳ら 2011)を用いて調査して,各種緑肥導入後の土壌に蓄積する有機物量を,従来の土壌改良資材である牛ふん堆肥と比較して示した.緑肥すき込み後1年で土壌中に蓄積された有機物は,緑肥作物の種類とすき込み時の生育ステージによって異なった.例えば,草丈2 mのソルガム(地上部乾物重1.3 t/10a)のすき込みは,牛ふん堆肥を1.4 t/10a施用した場合と同等の土壌への有機物蓄積効果を示した(図1).一方,ヘアリーベッチは牛ふん堆肥0.2~0.3 t/10a程度と同等の有機物蓄積効果であった.このように,様々な緑肥の有機物蓄積効果を定量的に比較することが可能である(唐澤 2022唐澤ら 2020).これにより,土壌への有機物蓄積に適した緑肥の種類を選定したり,緑肥と堆肥などの他の有機物との間で,同量の有機物を土壌に蓄積するために必要なコストと労力を比較したりすることが可能になった.

図1. すき込み1年後に炭素150 kg 相当の有機物を土壌に蓄積させるために必要な牛ふん堆肥と緑肥の量

土壌に混ぜた緑肥や堆肥の分解率から,それぞれの有機物蓄積効果を推定.唐澤ら(2020)より.

2.作土の土壌構造の改善と緑肥・カバークロップによる土壌侵食の防止

緑肥の導入による土壌有機物の蓄積により,作土中の大きな耐水性団粒の割合が増加した(唐澤ら 2020).また,イネ科の緑肥は,耐水性団粒の平均重量直径を34%増加させ,表層7.5 cm深の有機物濃度を11%増加させた(Blanco-Canqui and Jasa 2019).以上のように,緑肥の導入は,作土の団粒化を促進する効果があると考えられる.また,表土の団粒安定性(0~15 cm)は緑肥作物の種類によって大きく異なり,根長密度と土壌団粒安定性の間には有意な正の相関関係がみられた(Hudek et al. 2022).

主作物を栽培していない時期に露出する地表面を覆うために栽培される作物をカバークロップと呼び,それも緑肥の一種と考えることができるが,その導入による被覆は降雨による土壌侵食を軽減する(長崎県農林技術開発センター 2013).カバークロップによる土壌の被覆は,風による土壌侵食も軽減する(小松﨑 2018).こうした土壌侵食防止は,有機物が蓄積し土壌構造が良好になった作土を保護するのに効果的であると考えられる.

3.下層土の物理性の改善

堆肥などの有機物の施用では得られない緑肥に特有の土壌改良機能として,緑肥エンバクの導入により下層土の硬度が低下し,後作コマツナ(Brassica rapa L.)の根の伸長域が拡大することが確認された(Nakatsuka et al. 2022)(図2).これは,緑肥以外の有機物を施用した場合は,作土にのみ有機物が供給されるのに対し,緑肥を栽培した場合には,作土よりも下層に根が伸びることにより引き起こされた可能性がある.ダイズの根は,分解した緑肥の根によって作られた溝を利用して,圧縮された耕盤土壌で生長するとされる(Williams and Weil 2004).緑肥の根は,バイオサブソイラーとして機能する可能性が考えられている(Pulido-Moncada et al. 2021).緑肥の導入は,下層土の有機炭素を増加させることもできる(Patra et al. 2022).

緑肥の導入により,根が透水性の低い土層に伸び,土壌の透水性が向上する可能性がある(佐藤ら 2011).緑肥は,土壌の透水性を高めることにより作物の生産性を向上させるものの,これらの効果は,その栽培を中止してから2か月後には減少する事例も報告されている(Haruna et al. 2022).緑肥による透水性の改善効果の程度やそのメカニズムは,栽培する緑肥の種類だけでなく,土壌の種類や性質によって異なる可能性があり,透水性改善効果の活用に向けて,さらに理解が進むことが期待される.一方,乾燥条件下では,休耕と比較して,カバークロップは主作物の栽培前に作土の土壌水分を減少させるとも言われる(Meyer et al. 2019).

図2. エンバク作付で耕盤を改良した区と緑肥無作付区で栽培したコマツナほ場の土壌硬度とコマツナ根の分布(収穫時)

赤色が濃いほど土が硬く,緑色が濃いほど根が多い.ち密度の図中の数字は,各10 cm × 10 cm のグリッド内のち密度(mm、山中式硬度計)を示す.根の分布の図中の数字は,各10 cm × 10 cm のグリッド内の断面に見られた根の数(本)を示し100 本を超えるグリッドでは,100,125,150,175,200 の度数で視覚的に判定した.唐澤ら(2020)より.

4.土壌の生物性の改善

緑肥・カバークロップが様々な土壌健全性指標に与える影響を分析した結果,38の土壌健全性指標のうち28に有意な変化をもたらした(Jian et al. 2020Tully and McAskill 2020).13の生物学的指標のうち,雑草,病害,基質誘導性呼吸(土壌微生物のバイオマス,活性の評価指標の一つ)は緑肥処理で有意に減少した.また,土壌動物相,真菌指標,その他の微生物指標,酵素アッセイ,易分解性炭素,易分解性窒素,CO2バーストテスト,微生物バイオマス炭素,微生物バイオマス窒素は,緑肥処理で有意に高くなり,緑肥のすき込みが土壌生物の量や質,活性に影響を及ぼすことが示された(Jian et al. 2020).

緑肥は,様々な土壌線虫の個体数を減らす(山田ら 2000).クローバー(Trifolium pratense,T. incarnatum,T. resupinatum,T. repens, T. hybridum),アルファルファ(Medicago sativa),Crotalaria spectabilis,Crotalaria juncea,ブルールピナス(Lupinus angustifolius),ウーリーポッドベッチ(Vicia villosa)の様々な種を栽培した後,土壌中のダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)の個体数は大幅に減少したが,その一方で,それらのいくつかは,ネグサレセンチュウ(Pratylenchus penetrans)の密度を増加させた(山田ら 2003).緑肥は,適切に使用すれば土壌線虫を防除する効果的な手段であるものの,主作物に有害な線虫種と各緑肥作物が密度を減らせる線虫種を考慮して,種類を選定する必要がある.

緑肥・カバークロップは,根こぶ病などの土壌伝染病の防除にも有効であることが示唆されている(水久保,竹原 2005).緑肥・カバークロップは,土壌伝染病原体の個体数を減らすだけでなく,栽培体系の改善にも有効である(Panth et al. 2020).カバークロップは雑草の抑制にも有効である(Osipitan et al. 2019).

メタ解析により,土壌微生物叢は,他の慣行管理に比べて,カバークロップ下でより環境変化などに対して堅牢性をもつ可能性があることが明らかになった(Kim et al. 2020).裸地管理に比べ,エンバクの単植や,エンバクとマメ科やアブラナ科植物の混植は,糸状菌を増やし,土壌酵素活性を高めるなど土壌を生物学的に健全にすること,特に,エンバクとマメ科あるいはアブラナ科植物の混植が土壌の健康にとって好ましいことが示された(Thapa et al. 2021).

緑肥導入による養分供給メカニズム

1.窒素供給

マメ科作物を緑肥として導入すると,根粒菌に固定された窒素を含む作物の地上部と根が土壌に還元される.そのため,次に栽培される作物に窒素が供給され,窒素肥料の代替として利用できる(佐藤ら 2019).マメ科緑肥の肥料効果は古くから知られているが,根粒がつかないマメ科作物以外の緑肥も,後作の窒素源として有用であることがわかってきた.これは,主作物の収穫後に圃場を裸地にする期間があると,降雨により主作物が吸い残した窒素(硝酸態窒素)が溶脱して利用できなくなってしまうのに対し,主作物の収穫後に緑肥を導入すると,窒素が溶脱する前に緑肥が吸収し,次の作物の根が届きやすい作土に還元されることによると考えられる(原田ら 2014).

土壌中にすき込まれた緑肥に含まれる窒素は主に有機態窒素であり,そのままでは後作物に吸収されない.緑肥中の有機態窒素は,すき込まれた後,土壌中の微生物によって分解され,作物が吸収可能な形態に変換される.緑肥に含まれる窒素の無機化率は,緑肥作物の種類,生育ステージ,器官によって異なる(鮎澤ら 2020辻ら 2017).

米ぬかをモデル有機物として用いて,環境要因が緑肥などの有機物に含まれる窒素の利用性に及ぼす影響を調査した結果,施用有機物からの窒素の無機化率は,有機栽培か慣行栽培か,有機物施用の有無など,土壌管理の履歴によって大きく左右される可能性も示された(唐澤ら 2018a2018b).

2.カリウム供給

緑肥の導入により,カリウムの下層土への移動が減少し,作土中の交換性カリウムが緑肥を導入しなかった圃場よりも高くなり,その後の主作物へのカリウム施肥量を減らすことができる(Nakatsuka et al. 2022)(図3).実際,ソルガム後のキャベツにおけるカリウム施肥量を削減する技術が開発されている(森下ら 2020).

図3. 緑肥無作付区とエンバク区における深さ別の交換性カリウム(K2O)(すき込み4 週間後)

唐澤ら(2020)より.

3.リン酸供給

リン酸は窒素やカリウムに比べて溶脱しにくいため,緑肥導入によるリン酸溶脱の抑制がリン酸肥料の低減につながる可能性は低い.しかし,緑肥導入により,リン溶解菌数(図4),土壌ホスファターゼ活性,土壌バイオマスリンの増加が認められ,これにより,後作物によるリン吸収量が増加した可能性があることを示している(Hallama et al. 2019唐澤 20202021Karasawa and Takahashi 2015Takahashi et al. 2016).

さらに,緑肥導入により土壌中の土着アーバスキュラー菌根菌(AM)密度が増加し,AM菌感染率増加により後作物のリン吸収を改善するという新たな機能が明らかにされた(唐澤ら 2001Karasawa and Takebe 2012).

図4. 緑肥のすき込みが土壌のリン溶解糸状菌数に及ぼす影響

周りが黒に見えるコロニーは,周囲のリン酸カルシウムの沈殿を溶かしたリン溶解菌であり(周囲の沈殿が透明になり,下の机の黒色が見える),周りが黒くなっていないものは,リン酸カルシウムを溶解していない糸状菌.唐澤ら(2020)より.

4.緑肥導入により減らすことができる養分の量

緑肥からの養分供給量や供給速度は一定ではなく,緑肥の種類,すき込み時の生育ステージ,土壌条件や気象条件によって変動する.また,すき込んだ緑肥から供給される窒素(N),リン(P),カリウム(K)のバランスは,作物の種類,生育ステージ,環境条件によって変動する.緑肥導入後,次の主作物を減肥栽培するためには,それぞれの状況で削減できるN,P,K量を知る必要がある.各種緑肥を様々な条件で導入した事例が報告されていることから(鮎澤ら 2020唐澤ら 2020),類似の緑肥作物の種類,生育ステージ,環境条件の事例を参考にすることで,緑肥導入後のN,P,K削減可能量を知ることができる.

緑肥の効果に影響を及ぼす要因

1.作物種

緑肥として利用される植物種は数多くあるが,植物種によって栽培に適した時期や効果が異なる.主作物の栽培を止めることなく緑肥を導入するには,栽培適期が主作物の栽培期間と重ならない作物を選ぶ必要がある.また,栽培しやすく,生長や土壌の被覆が早く,短期間で十分なバイオマスを供給できることも,緑肥の種を選択する際に考慮すべき重要な要素である.さらに,作付体系の中で栽培する主作物の病原菌を増やさないこと,容易にすき込みなどの処理ができる作物であることも大事な特徴である.一方で,緑肥の効果は,その作物種によって異なる(Adetunji et al. 2020唐澤ら 2020)(表1).したがって,主作物の栽培を止めずに栽培でき,望ましい効果が得られる種類の緑肥を選択することが重要である.

表1.緑肥に期待される主な効果と効果があるとされる緑肥作物の種類


◎:非常に効果がある,○:効果がある.*1 試験未実施のため不明.*2 すき込みが遅れると窒素供給効果が小さく,窒素飢餓が起きることもある.*3 ホスファターゼ活性,リン溶解菌,バイオマスリンのいずれかに効果があるものに○,無印は,試験未実施のため効果は不明.*4 カタログ情報などに基づく.*5 効果のある線虫の種類は緑肥の種類によって異なる.(寒)は,冷涼な気候に適した緑肥作物で,寒地型牧草としても利用される作物.(暖)は,暑い気候に適した緑肥作物で,暖地型牧草としても利用される作物.唐澤ら(2020)より.

2.すき込み時の生育ステージ

緑肥のすき込みや生育を停止させる時の生育ステージは,緑肥の利用場面と利用目的に応じて変えるべき重要なポイントである(Balkcom et al. 2015).緑肥のすき込み時期や生育を止める時期については,緑肥のもつ様々な利点の間でトレードオフが発生することが多いため,最適なすき込み等の時期を決めるのが困難な場合がある(Adetunji et al. 2020).緑肥ソルガムの炭素窒素比(C/N)は生育ステージが進むにつれて増加した.これは,生育初期段階(低C/N)のソルガムのNは容易に無機化して次作物が利用可能である傾向がある(減肥につながりやすい)のに対し,C/Nが高い大型のソルガムのNは次作物が利用しにくいこと、その一方で、土壌への有機物蓄積には減肥につながりにくい大型のソルガムが適していることを示唆している(鮎澤ら 2020).また,ヘアリーベッチなど一部の緑肥のC/Nは生育ステージが進んでもそれほど増加しないことから,ソルガムなどとは異なり、大きく生長するほど,その後の主作物への窒素施用をより多く減らすことができる(唐澤ら 2020).

緑肥の生育を止める方法は,緑肥導入の目的と利用可能な農機によって異なり,モア(ロータリー式またはフレイル式),ディスクハローなどの農機の使用,除草剤の使用のほか,霜による生育停止などがある(Adetunji et al. 2020).緑肥の生育を止めた後,残さで土壌表面を覆ったり,ロータリー耕やプラウで土壌に混ぜたりする.生育停止後に土壌表面を覆うために用いられた緑肥の残さは,次の作物の作付けまでにロータリー耕などで土壌にすき込まれることも多い.

3.次の作物を栽培するまでの期間

緑肥を土壌にすき込むと,その後に植える作物の苗が障害を受けることがある(沢田 1969).新鮮で分解されていない有機物の混入は,腐生性土壌病原菌であるPythium属の大幅な増加につながるため,植物材料混入後すぐに播種や移植を行うことは避けるべきであるとされている(Manici et al. 2004).緑肥すき込み後の土壌中の有機酸の蓄積は,湛水条件下での作物の生育に悪影響を及ぼす可能性がある(浅木,上野 2009).緑肥由来のアレロパシー物質も,その後に植える作物に悪影響を及ぼす可能性があり(鄭ら 2006),播種までの期間をある程度,空けることが必要となる.ただし,緑肥のすき込みから後作物の植え付けまでの期間が長すぎると,すき込んだ緑肥から無機化された窒素が溶脱する可能性もあることから,緑肥のすき込みから後作の植え付けまでの腐熟期間を最適にすることが重要である(唐澤ら 2020).

おわりに

緑肥の様々な土壌改良機能が科学的に解明されつつある.緑肥が土壌中の有機物の蓄積や養分供給能力に及ぼす影響は,緑肥作物の種類,すき込み時期,土壌条件によって異なることが示され,それぞれの効果を得るために効果的な緑肥作物の種類の選定,すき込み時期,次の主作物の作付けまでの適切な期間の決定方法が明らかになった.また,緑肥を導入したシステムと従来のシステムとの間で,主作物の収量,労働時間,収入への影響も比較され,いくつかの緑肥導入体系の優位性が実証された(唐澤ら 2020Rosa-Schleich et al. 2019).これらのことから,緑肥を導入したシステムの普及が進みつつある.

緑肥は,後続の作物に栄養を与え,土壌の質を向上させるだけでなく,土壌中に炭素を蓄積し,病害虫を抑制する(Alyokhin et al. 2020).そのため,温室効果ガス(McClelland et al. 2021)や化学農薬の削減に貢献することも期待されており,持続可能な食料システムの構築に広く利用されることが期待される.

謝辞

本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「地域内資源を循環利用する省資源型農業確立のための研究開発」(2009年度から2013年度),農林水産省委託プロジェクト研究「生産コストの削減に向けた有機質資材の活用技術の開発」(2015年度から2019年度)の助成を受けたものです.

利益相反の有無

著者は開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
著者は自身の論文の著作権を保持し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構に対し 農研機構研究報告からの論文の出版を許諾する。
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