2017 年 42 巻 p. 1-11
本稿は,初等中等教育のキャリア教育の現状を普通教育論の視座から問い直して,普通教育における「職業教育」の在り方として,理科教育を通した「職業教育」の内容と方法を提示している。第一に,職場体験に大きく傾斜し教科教育との関連を欠いているキャリア教育の現状を,筆者によるアンケート調査と国立教育研究所による報告とによって明示している。第二に,わが国がモデルとしている米国キャリア教育運動におけるキャリア教育の本来の目的が,普通教育と職業教育との統一にあったことをおさえている。第三に,戦後教育学における職業教育との関連を問うた普通教育論に立ち返り,科学の知識による諸職業の通約的学習を同論の到達点として把握している。その到達点を教育内容・方法にまで具現して普通教育論をさらに一歩前に進めるために,第四に,理科の知識(内容)がどのような点で通約的学習を可能にするのか具体的に検討して,第五にデューイの転移論に基づいて,理科の知識を児童生徒に転移可能な状態で保障する方法を提示している。以上の作業を通して本稿は,戦後教育学の普通教育論を教育過程論の次元にまで降ろし,理科教育を通した「職業教育」を,キャリア教育の現状に対する代案として提出している。