2017 年 42 巻 p. 13-21
子どもの劇づくりと教育との接点においては,それが「子ども自身のもの」であるべきであるという理念が存在する。そのような活動と「遊び」との共通性が唱えられてきた。その共通性を考察する際に,ヴィゴツキーの幼児期のごっこ遊びにおける「内的ルール」の議論は,示唆に富んでいる。近年では,彼の論が,幼児期のごっこ遊びに限定されたものではないことが指摘されてきている。
本稿では,筆者が参加した小学生の劇づくりの実践事例を参照し,子どもたち自身が確立に参加する「内的ルール」の形成過程を具体的に考察する。ヴィゴツキーの遊びのルールについての論は,潜在的ルール,内的ルール,動的ルールというその三つの特徴をもつ。近年の解釈を踏まえ,子ども間のルールの共有という点に課題を見出す。この課題を明らかにするため,虚構場面の展開における「間」に注目して具体的事例を取り上げる。また,ルールの合意に向けたコミュニケーションへの参加について取り上げる。これらの子どもの姿から浮かび上がることは,子ども自身の「内的ルール」形成への取り組みである。子どもの遊びのルール,つまり能動的な「内的ルール」の形成過程の一つとして位置づけることができる。