2018 年 43 巻 p. 37-48
本研究は,子どもの認知特性をとらえ教育構想を導くための手立てと,子どもの認知特性への理解を共有し,授業改善に生かしていくための校内研修の在り方を提示し,実践研究をとおして検討するものである。
本研究ではまず,PASS 評定尺度を改訂し,各教諭の観察という臨床的情報を活用することで,子どもにたいする見方の固定化を防ぎ,教育構想に資する利用法を開発した。つぎに,ディスクレパンシー・一貫性アプローチを適用した支援方針設定の過程を示した。その際,個人だけでなく学級全体の認知特性の傾向とあわせ,他の生徒にも学習の支援となり得るよう,授業者らの問題意識を反映した。そして,認知の観点を授業省察の共通枠組みとすることで,子どもへのより具体的な支援の検討を促し,研究授業の成果を他教科,他学年にも広げられる形で整理し蓄積する校内研修体制の方法を提示した。
本研究では,どのような学力観が教師による観察や評定に影響を与えているのかを明らかにする方途を示すことはできていない。子どもの認知特性を授業づくりに活かすためには,教師の教科観や教材観,学力観から独立したものとして子どもの認知特性を位置づける必要があり,子どもの認知特性の把握の方法や,評定結果の解釈の方法を洗練させる必要がある。