教育方法学研究
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原著論文
米国大学初年次における表現主義に基づくライティング教育
ピーター・エルボウの理論と教科書の分析
森本 和寿
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2020 年 45 巻 p. 37-47

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抄録

本稿では,1970年代以降の米国において隆盛した表現主義,特にピーター・エルボウ(Peter Elbow)のライティング教育について検討する。表現主義は,文法・構成等の文章形式の習得を通した学術訓練を重視する伝統的なアカデミック・ライティングに対する問題意識から登場し,大学初年次ライティング教育において個人の思想・感情を表現することから始めることを主張した。このような主張に対して先行研究では,表現主義は個人に閉じたライティング教育であるという批判と社会に対する認識を育てることに寄与しているという擁護の両説が対立してきたが,どちらの立場も理論や思想的背景の検討に終始しており,具体的・実践的な検討がなされてこなかった。そこで本稿では,エルボウが作成した大学初年次学生用ライティング教科書の分析を通して,表現主義がどのようなライティング教育を行ってきたのかを具体的に検討し,表現主義が個人を社会化し得ていたのかを明らかにすることを目指した。

この検討を通して,表現主義が公的・社会的なものに接続する過程とは,①表現的言語を用いて身近な生活経験を語ることで自己の内面世界を表現し,②綴られた文章というメディアを用いたピアとの対話と文章の練り直しという再帰的な過程を通じて他者と出会い,③生活のなかにある問題を学術的ないし社会的な議論の俎上に載せることを試みるものであることを明らかにした。

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