教育方法学研究
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研究論文
C. ウォレスの言語教育の理論と実践
― 文化的・言語的に多様な教室での批判的リテラシー ―
小栁 亜季
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2023 年 48 巻 p. 37-47

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抄録

本稿は,1990年代以降,文化的・言語的に多様な学習者に対し,批判的リテラシーを参照しつつ実践を構想したウォレス(Wallace, C.)の言語教育の理論と実践を扱った。ウォレスは英語の第二言語学習者の社会的な位置づけを固定化するコミュニカティブ・アプローチへの批判意識を有していた。その上で,学習者が自身を相対化し他者に自身の立場を合理的に表明できることを「抵抗」と呼び,「抵抗」を可能にすることを教育目的に据えていたことを明らかにした。さらに,個人の経験に立脚し個人をエンパワメントする実践ではなく,将来的に教室内全員に対して「抵抗」を可能にする実践を目指していった。 そのためにウォレスは,複数の解釈が許容され,対話の可能性へと開かれた「解釈共同体」へと教室を転換していくことを目指し,そのために全員で共通のテクストを読み,その後テクストについて互いに対話する実践を構想した。読解のプロセスに際しては,複数の解釈が可能となるような「高収穫なテクスト」を用いることや,メタ言語的な用語を共有することを提起した。一方で,対話の場面では,読解時のメタ言語的な用語や分析視角に立脚した交流をすること,さらに「探索的問い」で互いの解釈を深めていくことが志向されていた。このようなウォレスの言語教育論は,一方で教室内の多様性を許容しつつ,他方で教室内をつなぐ共通性を担保することで,「解釈共同体」を実現しようとするものといえた。

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