名古屋文理短期大学紀要
Online ISSN : 2433-6548
Print ISSN : 0914-6474
都の錦『沖津白波』典拠考
神谷 勝広
著者情報
研究報告書・技術報告書 フリー

1993 年 18 巻 p. 140-130

詳細
抄録

都の錦(延宝三年<1675>生・没年未詳)は、井原西鶴亡きあとの浮世草子界を支えた有力作家である。彼の著述した浮世草子の中に、盗賊譚を集めた『沖津白波』(元禄十五年<1702>)がある。従来、この作品は、それまでの仮名草子や西鶴『本朝桜陰比事』のように犯罪を暴く裁判に重点があったものを、犯罪そのものに焦点をあわせるようにしたことが一つの趣向として評価されてきた。この点は、北条団水の『昼夜用心記』や月尋堂の『償偶用心記』などに先んじており確かに意味がある。しかし、『沖津白波』には、それ以上に注目すべき点が存する。この作品は、各章の冒頭部分などを、宮川道達『訓蒙故事要言』・『撰集抄』・『太平記』・『平家物語』・小唄を駆使しながら、順に儒教的・仏教的・軍記的・歌謡的・儒教的な文章にしている。つまり、文体を意識的に変化させているのである。西鶴以後の作家達の中で、都の錦は、特に文体というものに意識的であった。その意味で、この『沖津白波』は都の錦の特徴のよく出た作品ということができよう。

著者関連情報
© 1993 名古屋文理大学
前の記事 次の記事
feedback
Top