本稿では、開票結果の操作(結果操作)、票売買、脅迫という三つの選挙不正形態に着目し、政権側の選挙での勝利見込みが各不正にいかなる効果を及ぼすのか考察する。この問いについて、先行研究では研究者によって主張が分かれており、定説はない。そこで、本稿では勝利見込みが各選挙不正形態に及ぼす効果について理論的に検討し検証可能な仮説を導き、1945年から2015年までに民主主義国と非民主主義国の合計157カ国で行われた大統領・議会選挙のクロスナショナル・データを用いて実証分析を行った。分析の結果、勝利見込みが高い場合に結果操作と脅迫が行われやすくなるが、勝利見込みが票売買に及ぼす統計的に有意な効果は見られないことが分かった。さらに、勝利見込みが各選挙不正形態に及ぼす効果は政治体制によって条件づけられることも分かった。具体的には、民主化が進んだ体制下における勝利見込みは、そうでない体制下における勝利見込みよりも結果操作と票売買に影響を与えるが、特に票売買については民主的な国でのみ勝利見込みが効果を及ぼすということである。上述のことを明らかにした本稿は、勝利見込みと選挙不正の関係についての新たな知見を提示した。