熱帯農業研究
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原著論文
植物遺伝資源と漁業資源の保全と利用間の公益のバランス
~食料・農業植物遺伝資源条約と漁業資源に関する条約の比較を通じて~
小林 邦彦
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2020 年 13 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

本稿は,食料農業植物遺伝資源と漁業資源についてそれぞれの資源の保全と利用という2つの公益の定め方の違いを明らかにするため,食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)と南極海洋生物資源条約(CCAMLR)の条文内容をレビューした.ITPGRでは,食料農業植物遺伝資源(以下,本論文ではPGRFA)の利用促進を目的として,多国間システム(MLS)という独自のシステムが構築されており,PGRFAの利用を通じて保全の公益を高めようとしている.つまり,利用から生じた利益を保全に“つなげる”ことによって公益のバランスを確保している.一方,CCAMLRでは,漁業資源の有限性に着目し,漁業資源を含む生態系への影響を考慮した利用のあり方を,情報収集,モニタリングなどの機能を条約で定め,保全と利用の公益のバランスを確保しようとしている.以上より,資源という同じカテゴリーであるが,それぞれの資源の保全と利用の公益の調整が,利用に係る影響を考慮することによって確保する場合(漁業資源)と利用から生じた利益を保全につなげる場合(植物遺伝資源)と,資源の特性によって異なることが明らかになった.

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© 2020 日本熱帯農業学会
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