熱帯農業研究
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13 巻, 1 号
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原著論文
  • ~食料・農業植物遺伝資源条約と漁業資源に関する条約の比較を通じて~
    小林 邦彦
    2020 年 13 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    ジャーナル フリー

    本稿は,食料農業植物遺伝資源と漁業資源についてそれぞれの資源の保全と利用という2つの公益の定め方の違いを明らかにするため,食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGR)と南極海洋生物資源条約(CCAMLR)の条文内容をレビューした.ITPGRでは,食料農業植物遺伝資源(以下,本論文ではPGRFA)の利用促進を目的として,多国間システム(MLS)という独自のシステムが構築されており,PGRFAの利用を通じて保全の公益を高めようとしている.つまり,利用から生じた利益を保全に“つなげる”ことによって公益のバランスを確保している.一方,CCAMLRでは,漁業資源の有限性に着目し,漁業資源を含む生態系への影響を考慮した利用のあり方を,情報収集,モニタリングなどの機能を条約で定め,保全と利用の公益のバランスを確保しようとしている.以上より,資源という同じカテゴリーであるが,それぞれの資源の保全と利用の公益の調整が,利用に係る影響を考慮することによって確保する場合(漁業資源)と利用から生じた利益を保全につなげる場合(植物遺伝資源)と,資源の特性によって異なることが明らかになった.

  • 川満 芳信, 中原 麻衣, 寳川 拓生, ディンT. ホアン, 渡邊 健太, 平良 英三, 池田 剛, 後藤 秀樹, 上野 正実
    2020 年 13 巻 1 号 p. 8-19
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    ジャーナル フリー

    島嶼地域の限られた水資源を活用してサトウキビ生産を安定化させるためには,土壌水分,蒸発散量および植物の状態を計測しながら潅水時期を決めなければならない.本報では,その節水灌漑の基本となる個体当たりの蒸散速度の推定を試みた.開発した気象観測装置(ハルサービュー)を用いて微気象要因を,また電子天秤を用いてポット栽培サトウキビの蒸散速度を10分間隔で計測し,両者の関係を解析した.サトウキビ(品種NiF8)の蒸散速度は以下の3条件下で測定した;1)朝夕の通常潅水の場合,2)潅水を停止して急激な水ストレスを与えた場合,3)土壌pF値を見ながら緩やかな水ストレスを与えた場合,である.その結果,十分な潅水条件下では,サトウキビの蒸散速度は日射量,飽差,気温,相対湿度によって単回帰出来た.また,計測開始3日間の蒸散速度の実測値を用いて重回帰モデルを作成し,その後の8日間の蒸散速度の日変化を高精度で推定できた.一方,ポットへの潅水を停止しpF 2.5以上の水ストレス下では蒸散速度は急速に低下し,pF 4.0でほぼゼロになった.しかし,この様な水ストレス状態にあっても,土壌pF値に基づいた補正項を加えると蒸散速度の日変化は推定できた.以上より,微気象要因と土壌水分データを用いてサトウキビ個体の蒸散量を推定し,リアルタイムに潅水の量とタイミングを決定するスマート農業の実現の可能性が示された.

  • 寳川 拓生, 川満 芳信
    2020 年 13 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    ジャーナル フリー

    サトウキビは台風や低生産性土壌などの不良環境下で栽培されており,単一品種ではなく生態型の異なる多様な品種を栽培することが気象災害や病害蔓延に対するリスクを軽減し,安定的な生産が実現されると考えられている.その重要性は育種創成期以来強く意識されてきたが,品種数と構成割合の両方を加味した多様性の定量的評価はなされておらず,最適な品種構成に関する議論は進んでいない.本研究では,生態学的手法を用いて,サトウキビ品種の普及状況から品種多様性を定量評価し,品種多様性の現状と改善方針について議論した.その結果,南西諸島における品種多様性は,行政的なポリシーや生産サイドの嗜好性の違いから鹿児島県と沖縄県,沖縄県の分蜜糖地域と含蜜糖地域では異なっていた.多様性増幅に関し,鹿児島県や沖縄県含蜜糖地域では品種数よりも均等度の貢献が大きく,沖縄県分蜜糖地域では均等度よりも品種数の貢献が大きいことが示された.ただし,沖縄県分蜜糖地域では品種数を増加させても,各地域で似通った構成となる傾向が示されたため,普及面での課題があると考えられる.品種数の増加による多様性増幅には限界があるため,均等度すなわち品種構成を管理する体制(品種増殖の調整,適地適品種の普及啓蒙など)の確立が行政的立場から求められる.

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