熱帯農業研究
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原著論文
サトウキビ個体の蒸散速度の実測と気象および土壌水分データを用いた推定
川満 芳信 中原 麻衣寳川 拓生ディンT. ホアン渡邊 健太平良 英三池田 剛後藤 秀樹上野 正実
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2020 年 13 巻 1 号 p. 8-19

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抄録

島嶼地域の限られた水資源を活用してサトウキビ生産を安定化させるためには,土壌水分,蒸発散量および植物の状態を計測しながら潅水時期を決めなければならない.本報では,その節水灌漑の基本となる個体当たりの蒸散速度の推定を試みた.開発した気象観測装置(ハルサービュー)を用いて微気象要因を,また電子天秤を用いてポット栽培サトウキビの蒸散速度を10分間隔で計測し,両者の関係を解析した.サトウキビ(品種NiF8)の蒸散速度は以下の3条件下で測定した;1)朝夕の通常潅水の場合,2)潅水を停止して急激な水ストレスを与えた場合,3)土壌pF値を見ながら緩やかな水ストレスを与えた場合,である.その結果,十分な潅水条件下では,サトウキビの蒸散速度は日射量,飽差,気温,相対湿度によって単回帰出来た.また,計測開始3日間の蒸散速度の実測値を用いて重回帰モデルを作成し,その後の8日間の蒸散速度の日変化を高精度で推定できた.一方,ポットへの潅水を停止しpF 2.5以上の水ストレス下では蒸散速度は急速に低下し,pF 4.0でほぼゼロになった.しかし,この様な水ストレス状態にあっても,土壌pF値に基づいた補正項を加えると蒸散速度の日変化は推定できた.以上より,微気象要因と土壌水分データを用いてサトウキビ個体の蒸散量を推定し,リアルタイムに潅水の量とタイミングを決定するスマート農業の実現の可能性が示された.

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© 2020 日本熱帯農業学会
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