鹿児島県大隅半島南部の特産香酸カンキツである辺塚ダイダイの遺伝的特性および果実品質を調査した.CAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)分析の結果,辺塚ダイダイはブンタン由来の細胞質を備え,カブス(ダイダイ),紅甘夏(ナツミカン)およびキミカンと近縁であった.供試した辺塚ダイダイ4種類では核および葉緑体のCAPS遺伝子型に差異が認められなかった.4か年間にわたり果実品質を調査したところ,利用盛期の9月下旬から10月頃には,果皮に緑色が残り,滴定酸度は約4%であった.果実重は成熟に伴い増加を続け,10月下旬で約100 gであった.有機酸組成ではクエン酸の割合が約97%であった.アスコルビン酸含量は19.2~28.0 mg・100 mL-1であった.香気成分ではリモネンが最も多く81.2%であった.γテルピネンの9.8%,βミルセンの2.6%,αピネンの1.4%,p-シメンの1.2%,サビネンの1.1%がそれに続いた.辺塚ダイダイに特徴的な香気成分は認められなかった.香気の官能評価でも辺塚ダイダイに特徴的な項目は確認できなかった.これらのことから,辺塚ダイダイは一つの特徴的な香気があるのではなく,香りのバランスが他の香酸カンキツと異なることで,特徴的な香りを形成していることが示唆された.