抄録
食料農業植物遺伝資源条約(ITPGR)は,生物多様性条約の枠組みの中で標準材料移転契約(SMTA)を用いた食料農業植物遺伝資源(PGRFA)へのアクセス促進と利益配分を行う多国間制度を採用した.本論文では,わが国がITPGRに加入する場合,SMTAによる金銭的利益配分方式の運用上の問題点とその対応を検討した.その結果,①多国間制度の対象となるPGRFAは,(独)農業生物資源研究所ジーンバンクが保有するものが最も条件に合致していると推察した.②多国間制度の利益配分方式では,アクセスを制限する場合がある知的財産権制度との調整が図られており,成果物が特許で保護された場合には利益配分が義務化され,育成者権で保護された場合は任意とする考え方は容認できる.③多国間制度の利益配分率として採用される売上高の0.77%は,わが国の種苗業者にとって概ね適正なレベルである.④成果物として多国間制度外に出たPGRFAは,その後自由に利用できる.⑤利益配分に関するアフリカ方式は,受領者のコスト負担が多くなり選択しないほうがよいと考えられた.