熱帯農業研究
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3 巻, 2 号
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原著論文
  • 大川 雅央, 新野 孝男, 白田 和人, 長峰 司
    2010 年3 巻2 号 p. 47-56
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    植物遺伝資源は長らく「人類共通の財産」と考えられ,自由に利用されるべきであるとされてきた.しかし,1993年に発効した生物多様性条約は遺伝資源への各国の主権的権利を認めた.そこで,FAOにおいて食料農業植物遺伝資源(PGRFA)の交換と利用の新たな多国間制度作りが進められ,2001年に食料農業植物遺伝資源条約(ITPGR)が採択された.しかし,わが国は条文第12条3項(d)がPGRFAの利用から生まれるDNA関連発明について特許を取得できるかどうか解釈が曖昧であるとして採択を棄権した.本論文の目的は,採択棄権の最大の理由となった本条文について,わが国の知的財産権制度との整合性を検討することである.この目的のため,条約の文脈に沿った用語の解釈を行うとともに,曖昧さが残る場合にはITPGRの準備作業での議論を援用し解釈を補充した.この結果,①PGRFAは,遺伝子といった遺伝的機能単位を含めた植物体およびその部分と考えられる,②条文中の「多国間制度から受領したそのままの形態で」という句は,前の句の「遺伝的部分もしくは構成要素」を修飾する,③多国間制度から受領したPGRFAから単離・精製された遺伝子は発明に該当し,PGRFAに内包されていた元の遺伝子「そのままの形態」ではない,④PGRFAから単離・精製した遺伝子の特許権は,そのPGRFAの「円滑なアクセス(取得の機会)を制限する知的財産権」に該当しない,と解釈できる.これらの解釈により,条文第12条3項(d)は,わが国の知的財産権制度と整合し,PGRFAからのDNA関連発明は,特許を取得できると結論できる.PGRFAを活用した品種育成を推進するため,今後ITPGRへの加入に向け,種苗業者,大学・研究機関および政府が連携して取り組むことが望まれる.
  • 浅野 陽樹, 小畑 寿, 藤井 真理, 柄本 康, 杉本 安寛
    2010 年3 巻2 号 p. 57-61
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    水田において窒素を大量に投入して栽培したノットグラス(Paspalum distichum L.)を材料草として調製したサイレージの発酵品質に及ぼす添加剤の効果を明らかにすることを目的とし,何も添加しない対照区,乳酸菌添加区,および糖蜜添加区について,貯蔵後28 日目の発酵品質を比較検討した.材料草中のWSC 含量は9.1(mg/g DM)と低い値を示した.pH は乳酸菌添加区では対照区と同等の5.1 を示したが,糖蜜添加区では4.8 と両区よりも低い値を示した.総有機酸含量は,乳酸菌添加区では対照区と同等の0.66%を示したが,糖蜜添加区では1.09%と両区よりも高い値を示した.乳酸含量は,乳酸菌添加区では対照区と同等の0.43%を示したが,糖蜜添加区では0.90%と両区よりも高い値を示した.酢酸含量および酪酸含量は処理間に有意差はなく,それぞれ0.18%および0.08%以下の低い値を示した.フリーク評点は乳酸菌添加区では対照区と同等の44 点を示したが,糖蜜添加区では89 点と両区よりも高い値を示した.アンモニア態窒素含量はすべての区において0.04%以下と著しく低い値を示した.VBN/TN はすべての実験区で12.5 以下の[優]と評価され,特に糖蜜添加区では2.6 と最も低い値を示した.乾物あたりの硝酸・亜硝酸態窒素含量は,材料草では0.04%を示したが,すべての実験区で貯蔵中に消失し検出限界以下となった.以上より,水田で多量の窒素を施用して栽培したノットグラスを予乾した後に調製するサイレージは,糖蜜添加により安定的に良好な発酵品質が得られ,また給餌後の硝酸塩中毒の危険性は低いと考えられる.
  • 李 佩璇, 志和地 弘信, 入江 憲治, Ye Tint Tun , 石田 裕, 豊原 秀和
    2010 年3 巻2 号 p. 62-69
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    本研究は,ミャンマーから導入したヤマノイモ属ダイジョ(Dioscorea alata L.)品種の塊茎に含まれる一般成分,ポリフェノール類とその抗酸化能,アラントイン,アラントイン酸,アデノシンおよび遊離糖類含有量の品種間差異を明らかにすることを目的とした.
    ミャンマーのダイジョ品種の塊茎成分は,全ての成分で品種間差異が大きかった.特に,これまでに報告されている同じヤマノイモ属のナガイモ(Dioscorea opposita)やジネンジョ(Dioscorea japonica)などに比べて,ミャンマーのダイジョ塊茎成分には炭水化物,脂質,ポリフェノールおよび遊離糖類が多く含まれることが明らかになり,ミャンマーのダイジョ品種が,塊茎成分において,遺伝的多様性が大きいことを示した.一方,アラントインの含有量は,ジネンジョやツクネイモ(D. opposita)より低く,アデノシンは全ての品種に含有が認められた.なお,実験には倍数性レベルの異なる品種を用いたが,塊茎成分量と倍数性レベルとの関係については,ミャンマーの3倍体の品種において脂質が多く含まれる傾向を認めたものの,その他の測定物質の含有量と倍数性との関係は明確ではなかった.
  • 大川 雅央, 新野 孝男, 白田 和人, 長峰 司
    2010 年3 巻2 号 p. 70-78
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    食料農業植物遺伝資源条約(ITPGR)は,生物多様性条約の枠組みの中で標準材料移転契約(SMTA)を用いた食料農業植物遺伝資源(PGRFA)へのアクセス促進と利益配分を行う多国間制度を採用した.本論文では,わが国がITPGRに加入する場合,SMTAによる金銭的利益配分方式の運用上の問題点とその対応を検討した.その結果,①多国間制度の対象となるPGRFAは,(独)農業生物資源研究所ジーンバンクが保有するものが最も条件に合致していると推察した.②多国間制度の利益配分方式では,アクセスを制限する場合がある知的財産権制度との調整が図られており,成果物が特許で保護された場合には利益配分が義務化され,育成者権で保護された場合は任意とする考え方は容認できる.③多国間制度の利益配分率として採用される売上高の0.77%は,わが国の種苗業者にとって概ね適正なレベルである.④成果物として多国間制度外に出たPGRFAは,その後自由に利用できる.⑤利益配分に関するアフリカ方式は,受領者のコスト負担が多くなり選択しないほうがよいと考えられた.
短報
シンポジウム
研究集会
平成22年度日本熱帯農業学会学会賞奨励賞特別講演要旨
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