2018 年 34 巻 4 号 p. 274-288
認知機能の脳内機構を探るには,特定の能力のみが選択的に障害された純粋例が有用である.純粋失音楽症(pure amusia)はこれまでに9例報告され,右上/中側頭回の皮質・皮質下が共通して障害されていた.一方,音楽的情動だけが障害された音楽無感症(musical anhedonia)は,筆者による2例も含め,これまでに5例が報告され,右島後部から上側頭回が主に侵されていた.音楽の知覚・認知が障害されたにも拘わらず,音楽的情動が保たれていた症例が存在することから,両者は少なくとも一部は脳内で異なる神経基盤を有すると考えられる.これらの結果は,過去に報告された脳賦活化実験の所見とも一致している.今後も,症例研究と脳賦活化実験のそれぞれの特徴と限界を理解したうえでの検討が求められる.