主催: 日本薬理学会次世代の会
会議名: 次世代薬理学セミナー 2025 in 名古屋
回次: 1
開催地: 名古屋
開催日: 2025/06/07
オピオイド受容体サブタイプ(μ、δ、およびκ)のうち、δオピオイド受容体(DOR)は、鎮痛作用に関与するばかりでなく抗うつ作用や抗不安作用を示すこと、またμオピオイド受容体作動薬にみられる薬物依存性やκオピオイド受容体作動薬にみられる薬物嫌悪性を示さないことから、魅力的な創薬標的である。また、最近では片頭痛発作時の鎮痛薬としても期待されている。実際、アストラゼネカは選択的DOR作動薬AZD2327およびAZD7268を抗うつ薬として第IIa相臨床試験を実施したが、有意な抗うつ効果が観察されなかったため、開発は中止された。しかし、AZD2327は有意な抗うつ効果を示さなかったものの、臨床試験でAZD2327による抗不安効果が示されたと報告されており、DOR作動薬が医薬品候補になり得ることを示唆している。我々は、既にキノリノモルヒナン骨格を有するDOR作動薬KNT-127 を報告している。KNT-127は用量依存的な鎮痛作用、抗うつ作用、抗不安作用を示したが、SNC80などの古典的なDOR作動薬においてしばしば認められる痙攣作用を示さなかったことから、医薬品として有望なリード化合物である。さらに我々は選択的DOR作動薬NC-2800を見出し、現在は第I相臨床試験を終え、第II相臨床試験の準備中である。一般に、医薬開発の過程においては化合物の好ましくない物理化学的性質やADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)特性などの問題から、医薬開発が継続できなくなることがある。このため、通常バックアップ化合物が準備される。そこで、バックアップ化合物としてNC-2800とは異なった骨格を有する新規DOR作動薬の設計・合成を試みた。化合物設計においてはKNT-127が設計されたときに考慮されたファーマコフォア情報を参考に、ピラゾロモルヒナン誘導体を設計した。設計化合物は、ナルトレキソンを原料に数段階を経て合成した。その際、設計化合物の位置異性体も得られた。評価の結果、設計化合物ばかりでなく、その位置異性体も選択的なDOR作動活性を示した。本シンポジウムでは、ピラゾロモルヒナン誘導体の設計、構造活性相関の詳細について述べる。また、高活性かつ高選択的であったSYK-1106 の抗うつ作用に関する検討結果についても紹介する。
COI:演題発表内容に関連し,筆頭および責任発表者の過去3年間のCOI関係にある企業などは以下のとおりです。受託研究・共同研究費:日本ケミファ株式会社