次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
2025 名古屋
セッションID: 2025.1_AG4
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座長:衣斐 大祐(名城大・薬・薬品作用学)、大垣 隆一(大阪大・院医・生体システム薬理学)
中枢神経疾患治療への応用を目指した膜タンパク質の立体構造解析
*林 到炫
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抄録

ドパミンは中枢神経系において重要な神経伝達物質であり、運動調節、報酬系、認知機能などに深く関与している。その異常は統合失調症やパーキンソン病、ハンチントン病などの中枢神経疾患の発症に関わることが知られており、これらの疾患の治療薬開発においてドパミン関連分子が重要な標的となる。ドパミンの神経伝達は、シナプス前ニューロンから放出された後、受容体を介したシグナル伝達を行い、その後トランスポーターによる再取り込みや分解によって調節される。この過程において、ドパミンD2受容体(D2R)と小胞型モノアミントランスポーター2(VMAT2)はそれぞれ異なる役割を果たしながら、ドパミンのシグナル伝達と恒常性維持に関与している。D2Rはシナプス後膜に存在し、ドパミンのシグナルを受容することで神経活動を調節する。一方、VMAT2はシナプス小胞においてドパミンを細胞質から小胞内に取り込み、神経伝達物質の適切な放出を制御する。本研究では、D2RとVMAT2の立体構造を決定し、それぞれの分子機構および薬剤との相互作用を解析することにより、効果的な治療戦略の確立を目指した。

D2Rは統合失調症治療薬の主要な標的であり、ブチロフェノン系抗精神病薬・スピペロンとの複合体構造をX線結晶構造解析により決定した。その結果、スピペロンの結合ポケットには特徴的な構造(Extendedbinding pocket, Bottom hydrophobiccleft)が存在し、D2Rの薬物選択性に寄与することが示された。また、機能性抗体を用いた解析により、抗精神病薬の結合メカニズムを詳細に検討した。一方、VMAT2はドパミンを含むモノアミン神経伝達物質を小胞内に輸送するトランスポーターであり、その阻害薬はハンチントン病や遅発性ジスキネジアの治療に用いられる。本研究では、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)による単粒子解析を用いて、VMAT2のアポ状態、ドパミン結合状態、阻害薬テトラベナジン結合状態の構造を高分解能で決定した。ドパミンはGlu312と塩橋を形成し、複数の残基との相互作用を介して結合することが示された。また、テトラベナジンは輸送経路の構造変化を引き起こし、機能を阻害することが明らかとなった。さらに、Asp426およびAsp399がプロトン交換に関与し、輸送サイクルの重要な要素であることを示唆した。

本研究の成果は、D2RおよびVMAT2を標的とした中枢神経疾患治療薬の作用機序を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発に貢献することが期待される。

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© 2025 本論文著者
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