1995 年 44 巻 7 号 p. 67-77
第六天魔王と天照大神との契約説を語る最初期のテキストである『中臣祓訓解』は、同説が神宮の仏教忌避の由来を中心的主題とするのではなく、寧ろ魔王より大日=大神への国譲りが主題となっていることを浮き彫りにする。そしてその魔王たる伊舎那天は仏教の障碍神としてばかりではなく、伊弉諾尊と習合し、更には日本が大日の本国であることの根拠ともなる。この魔王の複雑な性格は神国思想と末代辺土観とに引き裂かれた中世の自国意識の反映であり、第六天魔王説とはこの両者を止揚する契機として構想された創世神話であると考えられる。