1997 年 46 巻 4 号 p. 17-28
ここに取上げた都賀庭鐘の「絶間池の演義」(莠句冊第五話)は大坂地方の古代治水譚を、諸史料を典拠として組立てた作品で、幾つかの怪異な話が交えられている。物語はたくみに史料や文献をパロディ化し、総合化しているが、構成が窮屈で、作者の古代批判、呪術批判が折りこまれているために、難解である。しかし、作者には、この話を通して、生活感覚を共有する大坂地方の読者とのコミュニケーションをはかる意図があり、かならずしも成功といえないにしても、作者の考える「小説」の形態の模索を見ることができる。