1999 年 48 巻 12 号 p. 39-48
<大正十年代>、成長を欠いた作家というイメージが定着しても志賀直哉の威信が維持されたのは、作品が持つとされる<芸術性>がフェティシスティックに称揚されたからである。しかもその際、志賀の恵まれた創作環境に作品の<芸術性>を由来させる評言が少なくない。志賀の作品が醸し出す<芸術性>とは、志賀自身が生み出したものではなく、「文学の職業化・商品化」というリアルな<現実>に巻き込まれた文壇作家たちが反照的に惹起したイリュージョンであったことを、同時代言説の分析を通して検証し、<芸術性>という価値産出のメカニズムを解明する一助とする。