2012 年 61 巻 5 号 p. 33-43
『源氏物語大成』に結実する『源氏物語』の文献学的な研究で知られる池田亀鑑は、『宮廷女流日記文学』においては、主情的な評論を試みており、両者は鮮やかな対照をなしている。彼のこのような二面性は、個人的な資質による面もあったが、さらに、池田が人間形成をした大正期に哲学・芸術・文学・社会運動などあらゆる領域を席巻した「生命主義」とも呼ばれる大きな潮流の影響を考える必要がある。池田という研究者は、大正期という時代の新しい流れに反応し、この時代に文学研究をめぐって浮上してきた問題を引き受けて、一生を送ったといえるのである。