日本文学
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特集・日本文学協会第71回大会(第二日目)「語り」をめぐる断層と創造
魯迅『故郷』における〈語り手を超えるもの〉
――第三項論が拓く〈語り〉の地平――
李 勇華
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2017 年 66 巻 4 号 p. 23-36

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抄録

魯迅の『故郷』は日中両国で半世紀以上読まれた名作である。本論の前半では『故郷』をめぐる藤井省三と田中実の読みを比較検討し、世界観認識の違いが「読み方」に決定的な違いをもたらすことについて論じた。田中実によって展開されている第三項論は「語ることの虚偽」との闘いを内包しており、それによって〈近代小説〉を〈近代の物語文学〉から峻別できる。『故郷』の場合は、〈語り手〉の「私」を相対化する〈語り手を超えるもの〉を読者が構造化することが必須である。また、第三項論の方向性はテクスト概念の提起以後、さらに転換していったバルトの理論の方向性に極めて近いと私には思われる。そのため本論の後半では『明るい部屋』というバルトの最後の著作を取り上げて、田中実との間にある相同性についても論じた。

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