2017 年 66 巻 7 号 p. 55-66
その伝来の経過から推して、世阿弥周辺で編まれたと思われる修羅能〈知章〉の古本が伝わる。その〈トモアキラノ能〉を読み、その「本説」が『源平盛衰記』ではなく、『盛衰記』の別記に示唆されて、『平家物語』を再構成した草稿本に類するものであることを、テクストの読みから論じる。世阿弥の『申楽談儀』が、知盛・知章、さらに井上黒を語る「平家節」の節づけを論じているように、いわゆる「平家」物能の本説は、語り本『平家物語』で、『盛衰記』の指摘を受けて別角度から再制作された能が修羅能〈知章〉であることを、読みの上から説く。能台本の成り立ちには、このような経過があったかとも思わせる古本である。