2015 年 160 巻 p. 49-63
言語少数派の子どもに対し教科学習を支えるための言語能力育成が議論されているが,表面的な理解や丸暗記ではない概念学習が必要である。本稿では概念形成の過程に注目し,子ども自身や親の生活に関わる知識や体験を抽象概念と結びつける,母語と日本語による国語の支援授業におけるやり取りをヴィゴツキー理論および言語生態学の視点から質的に分析した。事例において,母親や支援者という身近な大人が働きかけ,子どもが応答する中で,生活体験に裏打ちされながら概念が変化し,広がっていく過程が認められた。この結果から,豊かな体験を積むこと,体験(具体)と抽象とを結びつけるため他者との十分な交流が確保されることの重要性が示された。言語少数派の子どもに対しては母語と日本語の両言語を介して体験と交流が得られる学習環境の整備が必要である。今後の課題として複数言語に通じた人材育成の必要性と所属クラスでの概念学習の検討が挙げられる。