2020 年 175 巻 p. 4-18
人は一生を通じて自己実現の過程を歩むと言えよう。自己実現とは完全に自分らしく生きていると自らが実感できる状態のことである。そのために「自分とは何か」を追求し,今,現在の自己認識から,目指すべき生き方形成 (キャリア形成) の方向性を得,それに向かって人生の設計 (キャリアデザイン) を行う必要がある。自己認識とは,過去から現在の自分,未来へと続く身近な人々の人生とのかかわり及び同時代に生きる身近な人々とのかかわり,関係性から「他者の他者としての自分」 (鷲田 1996:105-25) として反転的に得られるものである。タイトルを「多言語・多文化背景の年少者のキャリア形成」としているが,外国につながる子どもたちの多くが十全に「多言語・多文化背景」があるかどうかは疑わしい。彼・彼女らのキャリア形成において,「多言語・多文化」であることは,社会参加のためのスキルとしてのエンプロイアビリティ (労働市場においてプラスに評価されうる就業能力) だけでなく,自己実現の過程を歩む上で必要な自己認識にとっても重要なものである。外国につながる子どもたちに母語・母文化 (継承語・継承文化) を保障することは日本社会の責務である。