本稿は,形容詞化接尾辞「ハシ(ワシイ)」の中世以降の変遷を記述し,その消長のありようを〈形容詞化接尾辞による派生の史的変遷〉全体における位置づけと併せて考察したものである。中古に成立した接尾辞「ハシ」は,動詞を主たる語基として形容詞を派生したが,中世~近世にかけて既存の形容詞に対応して語を派生するようになる。しかし,その上接部分に制約があることや,類似形式との意味差が不明瞭になることを要因として,近世以降は一部の固定化した語を残して衰退する。この「ハシ」の展開は,同時期に同じく既存の形容詞を基にした二次的な派生が様々に行われていたことと重なり,「ハシ」の衰退は,多様に生み出された派生形式が,より汎用性の高い形式に固定化していく流れに位置づけられることを示した。