日本語の研究
Online ISSN : 2189-5732
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15 巻, 2 号
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  • ──マイナス感情・評価の提示──
    上林 葵
    2019 年15 巻2 号 p. 1-17
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    関西方言には,断定辞ヤに類似した文法的振る舞いを見せる「ジャ」という形式が存在する。本稿では筆者の内省及び複数名への調査をもとに,ジャの形態・統語的特徴,機能的特徴及び現れやすい具体的な発話状況について考察した。その結果,ジャが聞き手の発話や態度など発話状況に関わる要素に対する,話し手のマイナス感情や評価を提示する働きを持つことを明らかにした。また,①発話状況に関わる要素が期待・欲求・想定・規範などに代表される話し手にとっての「望ましさ」から逸脱したとき,②マイナス感情・評価の対象に現場性を伴って接触したときという2つの状況下において,ジャが実現しやすくなることを述べた。歴史的に関西方言の断定辞がジャからヤへと交替したことはすでに知られているが,本稿ではその過程において,ジャにマイナス感情・評価の提示というモーダルな性格が残された可能性を指摘した。

  • 村山 実和子
    2019 年15 巻2 号 p. 18-34
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,形容詞化接尾辞「ハシ(ワシイ)」の中世以降の変遷を記述し,その消長のありようを〈形容詞化接尾辞による派生の史的変遷〉全体における位置づけと併せて考察したものである。中古に成立した接尾辞「ハシ」は,動詞を主たる語基として形容詞を派生したが,中世~近世にかけて既存の形容詞に対応して語を派生するようになる。しかし,その上接部分に制約があることや,類似形式との意味差が不明瞭になることを要因として,近世以降は一部の固定化した語を残して衰退する。この「ハシ」の展開は,同時期に同じく既存の形容詞を基にした二次的な派生が様々に行われていたことと重なり,「ハシ」の衰退は,多様に生み出された派生形式が,より汎用性の高い形式に固定化していく流れに位置づけられることを示した。

  • ──「式保存」が成り立たない共時的・通時的背景──
    松倉 昂平
    2019 年15 巻2 号 p. 35-51
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    九州西南部の二型アクセントにおいては,前部要素の型が複合語全体の型に引き継がれるいわゆる「式保存」の法則がごく規則的に成り立つことが知られる。しかし福井県北潟(きたがた)方言の三型アクセントにおいては,前部要素が複合語の型を決定する全般的傾向は認められるものの,式保存に沿わない複合語の例が多い。本稿では,1拍+3拍及び2拍+3拍複合名詞のアクセントを分析対象として,北潟方言で一貫した式保存が成り立たない共時的・通時的背景を考察する。通時的考察では,「C型前部要素を持つ複合語が(式保存に反して)B型に転じる」傾向が見られることに着目し,その傾向が室町期の中央語に生じたアクセント変化(いわゆる「体系変化」)と同様の変化の結果を反映する現象であることを示す。

  • 大江 元貴
    2019 年15 巻2 号 p. 52-68
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,「6畳の部屋って結構広いよな。-いやいや,せまいせまい。」のような形容詞基本形反復文の談話的・統語的特徴について考察を行う。談話的特徴については,独話の形容詞基本形反復文は形容詞で表される情報の体感度が高い,あるいは探索意識が活性化しているほど自然になり,対話の形容詞基本形反復文は発話の即応性と能動性が高いほど自然になるという観察を示し,形容詞基本形反復文は「認知者と環境とのインタラクション」「発話者と対話相手とのインタラクション」を認めやすい談話環境で自然に成立する文であることを述べる。統語的特徴については,程度副詞や終助詞との共起,属性・状態の対象を表す名詞の言語化に関して非反復文に見られない制約があるという観察を示し,形容詞基本形反復文は属性・状態を叙述するという性格が弱い文であることを述べる。

  • ──京・大坂・尾張・江戸の対照──
    森 勇太
    2019 年15 巻2 号 p. 69-85
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,近世後期に見られる洒落本の行為指示表現について,京・大坂・尾張・江戸の4地点の状況を対照し,その地域差について考察した。敬語を用いない形式群を非敬語グループ,敬語オを用いた形式群をオグループ,敬語を用いた形式群を敬語グループとすると,上方は各グループの多様な形式を用いているが,江戸はほとんどが敬語グループであった。尾張は敬語形式の多様性は上方と類似しているが,敬語グループの頻度が高いことは江戸と共通していた。この地域差について,京・大坂では,敬語グループと他の形式,特にオグループを併用することが通常の運用となっているのに対し,江戸では丁寧体を基調とするスタイルにおいて,行為指示表現が「お─なんし」等少数の形式に限定される傾向にあり,中間的な尾張の運用は,心的距離や発話意図によって併用することがあるものの,全体的には敬語グループに偏っており,江戸に近い運用と位置づけられることを述べた。

  • ――漢字仮名交じり文の史的研究――
    久田 行雄
    2019 年15 巻2 号 p. 101-86
    発行日: 2019/08/01
    公開日: 2020/02/01
    ジャーナル フリー

    現在、日本語の表記で使用される楷書体漢字平仮名交じり文という書記体は、近代以前においては一般的ではなく、活版印刷の導入を機に使用されるようになったと指摘されてきた。しかし、本稿の調査により、一八世紀初期に出版された医書に楷書体漢字平仮名交じり文の使用例が確認されること、この書記体は一八世紀中期には仏書へと広がり、一八世紀後期以降にさらに使用範囲が広がっていくことを明らかにした。楷書体漢字と平仮名が併用されるようになったのは、楷書体漢字との併用を許容する程に平仮名の役割が徐々に変化してきたからであろうと指摘した。このような表記意識の変化が、一八世紀を通して社会に広がっていったことを明らかにした。

〔書評〕
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