名詞独立語文の中に「嘲り」の言語行動と結びついた「嘲り文」という文類型を見出し、その構造と名詞独立語文の体系における位置を明らかにした。嘲り文には2つの基本構造があり、1つは文末に〈延伸・自然下降〉を生じる構造(「よわむしー↘。」)、もう1つは「やー↘い」で文を開始する構造(「やー↘い、よわむし。」)である。名詞独立語文による嘲りは、このいずれかの構造に支えられて実現する。また、名詞独立語文の体系における「表出文」と「働きかけ文」という対立から見ると、嘲り文は働きかけ文に属し、「よわむし。」のような表出文よりもむしろ「おーい、高橋。」「よっ、節約上手。」のような、相手のことを呼びかける文やほめあげる文に近接する。構造に着目することで、連続的な言語行動を日本語がどのように切り分けているかを明瞭に捉えることが可能になり、名詞独立語文の体系的把握につながる。