2022 年 18 巻 2 号 p. 19-37
クルチウス編纂ホフマン増訂『日本文法試論』は主にホフマンの『日本語文典』の前触れとして位置づけられ,幕末の長崎方言の資料としての価値も指摘されているが,序文の誤訳や関連資料の未確認により成立経緯が正しく理解されていない部分も残っている。拙稿では『日本文法試論』の原稿,ホフマン旧蔵の書き入れ本,出島オランダ商館・オランダ植民地省文書の調査結果に基づき原稿の成立経緯とその背景を再検討する。編纂には主に出島で雇われていた召使,校閲にはオランダ通詞が関与したと結論づけ,和蘭辞典『蘭語訳撰』も活用された可能性を指摘する。さらに,クルチウス編纂の蘭和辞典の数頁分,『日本文法試論』の原稿についての大通詞名村八右衛門名義の宣言書の写し,そして当時の海軍伝習生勝海舟が原稿の内容についてオランダ語で記した49頁のメモの発見を報告する。