日本語の研究
Online ISSN : 2189-5732
Print ISSN : 1349-5119
18 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
 
  • ──古代語から現代語へ──
    佐伯 暁子
    2022 年 18 巻 2 号 p. 1-18
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,助動詞「べし」の連体形「べき」に接続助詞「を」が付接した「~べきを」について,中古から近世における使用実態を調査するとともに,形式名詞に付接する接続助詞的な「を」との関係を考察する。「~べきを」は中古には頻繁に用いられていたが,中世前期の過渡期を経て,中世後期には使用されにくくなった。ただし,逆接の意味を担う形式として語彙的に固定化することで,現在でも細々と使用されている。「~べきを」が使用されにくくなるのと並行して,「~ところを」が出現し,現代語では「~べきを」より「~ところを」の方が圧倒的に多く使用される。「べし」,接続助詞「を」,準体句の衰退という古代語から近代語への変化に伴い起こった「~べきを」の衰退が,「~ところを」を生み出す要因になったと考えられる。

  • ルディ トート
    2022 年 18 巻 2 号 p. 19-37
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    クルチウス編纂ホフマン増訂『日本文法試論』は主にホフマンの『日本語文典』の前触れとして位置づけられ,幕末の長崎方言の資料としての価値も指摘されているが,序文の誤訳や関連資料の未確認により成立経緯が正しく理解されていない部分も残っている。拙稿では『日本文法試論』の原稿,ホフマン旧蔵の書き入れ本,出島オランダ商館・オランダ植民地省文書の調査結果に基づき原稿の成立経緯とその背景を再検討する。編纂には主に出島で雇われていた召使,校閲にはオランダ通詞が関与したと結論づけ,和蘭辞典『蘭語訳撰』も活用された可能性を指摘する。さらに,クルチウス編纂の蘭和辞典の数頁分,『日本文法試論』の原稿についての大通詞名村八右衛門名義の宣言書の写し,そして当時の海軍伝習生勝海舟が原稿の内容についてオランダ語で記した49頁のメモの発見を報告する。

  • ──喉音合口字に着目して──
    王 竣磊
    2022 年 18 巻 2 号 p. 38-54
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,18世紀の長崎方言を反映しているとされる,『吾妻鏡補』所載の『海外奇談』を調査し,同資料の基礎音系が呉語であると指摘した上で,音訳漢字に反映されている日本語のハ行子音を考察した。同資料では,ハ・ホが主に喉音合口字で写されており,ヒ・フ・ヘが主に唇音字で写されている。呉語系中国資料全体において,原音の各型とハ行子音との対応関係,とりわけ喉音合口字の位置づけを検討した結果,唇音字がハ行子音[ɸ]を,喉音開口字がハ行子音[h]([ç])を,喉音合口字が脱唇音化[ɸ]>[h]の中間段階の音価をそれぞれ示唆していると考えられる。さらに,現代呉語の音声を参照し,その中間段階の音価を[hw]と推定した。以上のことから,『海外奇談』が18世紀の長崎のハ行子音の脱唇音化を反映していると結論づけられる。当時,ヒ・フ・ヘの子音はまだ[ɸ]が全体的に保たれていたが,ハ・ホの子音は中間段階の音価[hw]を持ち,変化の途上とみられる。

  • ──「あー,そう,でも,なんか」のしくみ──
    張 未未
    2022 年 18 巻 2 号 p. 55-72
    発行日: 2022/08/01
    公開日: 2023/02/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本語の雑談の物語開始における談話標識(DM)の使用傾向を調査し,次の3点を明らかにした。(1)物語の開始に際して,ゼロから5例まで幅があるが,1物語当たり平均約1例のDMが用いられる。(2)物語の開始に当たって,不確実性や言葉探しを表す「なんか」が最も多く用いられる。語り手自身が物語を開始する場合は,「そう」「でも」「で」「あの(ー)」も多く用いられる。相手の質問を受けて物語を開始する場合は,反応や思考を表す「あ」「あー」「うん」「あの(ー)」「いや」などの間投詞も多く用いられる。(3)物語開始時に複数のDMが使用される場合は,「情報の検索」を表すDMは自由に出現するが,基本的には「①先行文脈への反応」→「②物語の想起」→「③先行文脈と物語との連接関係の表示」→「④後続する物語に対する捉え方の表示」という提示順になる。DMの多用は,話者の態度の強調,言葉探しのための時間稼ぎ,発話内容の修正によるものと考えられる。

〔書評〕
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