中世のデハカナフマジ>イデ(ハ)カナハズについて以下の点を明らかにした。
①中世前期,出現当初はデハとカナフマジが別々に機能し〈条件+不可能〉を表す複文であったが,可能文の語用論的特性が影響し,〈必要条件〉を表す複合辞へ変化した。次いで目的事態のない〈非条件的必要〉へ,中世後期には〈必然〉へ意味拡張した。②中世後期には,デハからイデハへ,否定辞における非推量形の出現,イデハ終止の出現,イデカナハズ・イデモカナハズの出現,などの形態面でのバリエーションや変化が見られる。これらの成立経緯を推定するとともに,こうした現象はデハカナフマジ>イデ(ハ)カナハズが(イ)デハ条件文の一種と認識されていた段階から次第に(イ)デハ条件文として認識されなくなっていく過程を反映していると解釈した。