日本語の研究
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特集1 国際的観点からの日本語研究
江戸時代後期の聖書和訳・ギュツラフ訳『約翰福音之傳』は新約聖書ギリシア語本文から訳したか
宮川 創
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2023 年 19 巻 2 号 p. 37-52

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抄録

本稿の目的は,日本では江戸時代後期,幕末に入る前である1837年にシンガポールで公刊された『約翰福音之傳』(約翰之福音傳:ヨハン子スノ タヨリ ヨロコビ)の翻訳元の言語を特定することである。『約翰福音之傳』は,新約聖書中の四福音書のうち最後の福音書である『ヨハネによる福音書』の日本語訳である。この書は,新約聖書公同書簡中の三つの『ヨハネによる手紙』の日本語訳である『約翰上中下書』とともに,現存する最古の日本語訳聖書であると言われる。これらの書を訳したのは,プロイセン出身の宣教師ギュツラフ(漢名:郭士立あるいは善徳)である。先行研究では,ギュツラフが英語訳あるいはドイツ語訳から『約翰福音之傳』を日本語へ翻訳したと考えられてきた。しかし,本稿では,『約翰福音之傳』の天理図書館所蔵本の翻刻のテキストに出てくる固有名詞を,欽定訳聖書(英語),ルター訳聖書(ドイツ語),Textus Receptus(ギリシア語本文)と比較し,ギュツラフがこれらの人名をギリシア語本文から直接翻訳した可能性が高いことを示す。

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