「好きだ」を述語とする「好きだ」構文の対象の格標示にはガとヲが用いられるが,このうちヲは特殊な環境下で容認される。「好きだ」構文のヲの容認性については,同一格助詞の重複の回避,他動性の程度,節タイプ,モダリティなどの要因が指摘されてきた。しかし,実例を見てみると同じ条件下であってもガが使用されることもあればヲが使用されることもある。そこで本稿では,別の選択要因として,願望構文におけるガ-ヲ交替の一要因とされる情報構造に着目する。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用い,用例の情報構造をRD(Referential Distance)の計測によって分析した。結果,ヲは対象の旧情報性が高い文で使用されやすいことが分かった。また,先行研究で指摘されていたモダリティの要因は,実際には情報構造が直接的な要因であると主張する。