本稿では,中古と中世のゾの係り結びを比較し,①中世ではゾが格成分(時・場所・主体)に承接する割合が減少する,②中古・中世共にゾは述語直前に生起することが多く,その傾向が時代が下るにつれて強くなる,③中古以前には行われていた語順の変更が中世では行われにくくなるという3点の変化を示した。
さらに,焦点となる要素が代替集合(alternative set)を想定するかという点から,焦点を2つに区分し,上記の3つの変化が,ゾの係り結びの焦点化機能の変化によるものであることを指摘した。中世のゾの係り結びの中心的な用法は,中古以前に多く見られた語順変更を伴うものから離れ,述語の直前に現れる,代替集合を想定しない焦点にゾを付加するものと,文中の位置に関係なく,代替集合を想定する焦点にゾを付加するものへと移行したと考えられる。