日本語の研究
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古代日本語資料としての仮名散文作品研究の課題 : 語の認定をめぐる原典批判論的知見について(<特集>資料研究の現在)
岡崎 和夫
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2008 年 4 巻 1 号 p. 96-111

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抄録

確かな新資料の出現は、従来の研究にあらたな成果を導くものとして期待されるが、案に相違するばあいも少なからず認められる。小稿は、平安時代後期成立の仮名散文作品を中心に扱って、本文にかかわる先蹤の成果の質を問い、研究の課題をさぐることを主眼とし、次下の二点を指摘することを通して、資料研究の現在に、語学的側面から、また文学的側面にも及んで新たな視点を呈示する。はじめに、「暦日の吉凶」の意を持つ平安時代語と解されてきた諸語のうちその確かさが認定されるのは「ひついで」以外にないと考えられることを諸資料本文の追尋によって日本語学的見地から実証し、現在に至る資料研究のありよう、またその応用の現況にも修正を求める。これにあわせて『日本国語大辞典』『広辞苑』ほかの諸辞書の記述のありようの不確かさにも言及して修訂を求める。次に、これまで永く「たそに(誰そに)……」などと解されてきた『四条宮下野集』の当該本文を例にして、冷泉家本の仮名字体の検討から「たうに(答に)……」と論定すべきことをあきらかにし、本文の文脈と主意の理解、またそれに連動する文学的理解にも言及して従来の知見に修正を求める。

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