日本近代文学
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太宰治「女の決闘」のなかの近代文学史 : 起点としての「十九世紀的リアリズム」・森鴎外
安西 晋二
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2013 年 89 巻 p. 95-107

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抄録

「十九世紀的リアリズムの否定」と評価されてきた太宰治「女の決闘」(「月刊文章」昭和15・1〜6)の研究史を繙き、その源泉を探っていくと、そこには、この作品が内包する同時代の文学的状況との接点がある。特に森鴎外の存在は、近代小説におけるリアリズムの方法と言表行為主体<私>をめぐる昭和一〇年代の言説編成とを、「女の決闘」の方法論につなぐ楔となっていた。また、発表媒体である「月刊文章」との連動も、<私>の造型において同時期の私小説言説が意識されていたことを示す。つまり、「女の決闘」は、近代小説の機構や同時代の文学状況を批評し、小説化するという、文学史に対するパロディの視線をもった作品だと考えられるのである。

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