新潟医療福祉学会誌
Online ISSN : 2435-9777
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原著論文
地域における健全育成の環境づくりに対する移動児童館活動の可能性の検討
荒川 大靖寺田 貴美代渡邉 恵司森田 裕之
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2025 年 24 巻 3 号 p. 37-46

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Abstract

児童館は児童福祉法40条に基づく児童福祉施設であり、運営にあたっては、児童館のない地域に出向いて遊び等の体験機会を提供する、移動児童館活動を行うことが児童館ガイドラインで定められている。先行研究では、移動児童館活動は児童館外でニーズを把握し、支援につなげる予防的効果が期待できるとされているが、実態は十分に把握されていない。そこで本研究では、移動児童館活動の実施内容を明らかにした上で、遊び等の提供を中心とした活動が地域ニーズの把握や充足に向けた取り組みへと発展する過程を分析し、地域における健全育成の環境づくりに対する移動児童館活動の新たな可能性を考察した。

全国の児童館を対象とした調査結果からは、移動児童館活動において子育て支援活動や運動遊びの提供等が行われている実態が把握された。また、地域ニーズの充足に向けた取り組みに関しては、個別支援や社会資源を活用した支援を提供していることが明らかになった。さらに、これらの活動の展開過程では、多くの地域住民が関わり、地域における多様な組織の連携が促進されることが示された。そのため、移動児童館活動は児童の健全育成に関する地域住民の意識向上に結び付き、住民同士が主体的に地域ニーズの充足に向けて取り組む過程にもつながることが明らかとなった。また、これらの過程をとおして移動児童館活動は、地域住民による主体的な活動へと発展する可能性があることが示唆された。

Translated Abstract

Children’s centers are welfare facilities established under Article 40 of the Child Welfare Law. The operating guidelines for such establishments stipulate that staff members should visit areas where these are lacking and provide opportunities for children to engage in play events through mobile children’s center activities. Previous research has shown that mobile children’s center activities can have a preventive effect by identifying needs outside of children’s centers and connecting them to support, but the actual situation has not been fully understood. This study examined the activities of mobile centers and analyzed how play-based activities have evolved to meet the needs of local children and their caregivers. It also investigated the potential of mobile children’s center activities in creating a suitable environment for the sound development of children in the community. The results of a nationwide survey of children’s centers showed that mobile children’s center activities include childcare support and the provision of physical play. Regarding meeting community needs, they provide individualized support and assistance through social resources. The development of these activities involves numerous local residents and promotes collaboration among various community organizations, including neighborhood associations, which aim to foster unity and support within the community, and children’s associations, which focus on the well-being and engagement of young people through organized events and interactions. Therefore, mobile children’s center activities provide an opportunity to raise awareness among local residents about the sound upbringing of children. In this process, residents must proactively work together to meet community needs. Mobile children’s center activities are not limited to children’s centers and have the potential to develop into proactive facilities for local residents.

I はじめに

児童館とは、「児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、または情操を豊かにすること」を目的として、児童福祉法第40条に定められている児童福祉施設である。2022年10月時点において、全国に4,301箇所の児童館が設置されているが、約20年前から緩やかな減少傾向が続いている1)。全国の1,741市区町村を対象にした調査では、回答のあった1,163市区町村において児童館の設置率は60.6%(705市区町村)であり、市区町村を都道府県別でみると、13都県で児童館の設置率が80%以上である一方、11道府県においては設置率が50%未満に留まっている。そのため、児童館の設置数の緩やかな減少傾向と設置率の差については、関係性の相関が明らかとなっていないものの、設置率には地域的な格差があることを、これらのデータから読み取ることができる2)

また、児童館の種別や施設設備、職員配置については「児童館の設置運営について」(1990年8月7日厚生事務次官通知)で定められており、施設の規模別に小型児童館、児童センター、大型児童館等に分類される3)。そして、児童館に配置される職員については、児童の遊びを指導する者(以下、児童厚生員)を2人以上置かなければならないとされ3)、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第38条に規定する保育士や社会福祉士、小学校等の教諭の資格を有する者などが該当するとされている。さらに同基準39条には「児童厚生施設における遊びの指導は、児童の自主性、社会性及び創造性を高め、もって地域における健全育成活動の助長を図るようにこれを行うものとする」とされている4)

児童館の運営にあたっては、「児童館ガイドライン」(2018年10月1日厚生労働省子ども家庭局長通知)が定められており、2018年の改正で、児童館の施設の特性や機能・役割の明確化が図られた。さらに、2023年には「こどもの居場所づくりに関する指針」が閣議決定され、この内容を児童館ガイドラインに反映するため、2024年度に再改正が検討されている5)

児童館ガイドラインでは、児童館の活動内容を8項目に整理しており、遊びによる子どもの育成や子どもの居場所の提供、子育て支援の実施等が定められている。その中の地域における健全育成の環境づくりの項目においては、児童館がない地域に出向くなどによって遊びや児童館で行う文化的活動等の体験の機会を提供するように努めることとして、いわゆる移動児童館活動が定義されている6)

安次富らによれば、移動児童館活動のような児童館外での活動は、児童館内では把握しづらい児童や保護者が抱えている潜在的課題の発見につながり、福祉的課題の予防的な対応が可能となることが指摘されている。また、把握したニーズを分析して、事業計画等に具現化していく視点の重要性が論じられている7)

そして、国の施策においても子育てニーズ等に対する予防的な対応の必要性が示されており、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(2021年12月閣議決定)においては、「今後のこども政策の基本理念は予防的な関わりを強化し、待ちの姿勢から必要な子ども・家庭に支援が確実に届くような支援へ転換すること」を求めている8)。すなわち、施設を利用する児童や保護者に対する児童館内における支援提供に加えて、児童館外においても積極的にニーズを把握し、支援を提供することが期待されている。また、そのようなアウトリーチ支援につなぐためには、地方自治体とNPO等の民間団体との連携強化の必要性も明らかになっている9)

さらに、児童館が提供する支援については、大竹らによって2018年に全国調査が実施されており、障がいや疾病による配慮が必要な児童の支援やひとり親家庭の児童の支援、虐待(ネグレクトを含む)が疑われる児童や家庭の支援に取り組んでいる児童館が多い状況が報告されている。その具体的な方法としては、見守りや相談対応が全体の約60から70%である一方で、アウトリーチ(訪問活動)によりニーズ対応を図ったという回答は2.7%に留まっている実態を報告している。そして、この調査結果を踏まえ、児童館の職員が社会的ニーズを発見しやすい立場にあることを自覚し、他機関と情報交換が図られる会議等へ参加することにより、地域ニーズの早期発見と対応につなげる意義について論じている10)

また、植木らは児童館における児童厚生員が専門性を高め、地域のニーズを把握する調査力の改善と、社会資源との連携を構築するソーシャルワーク機能の充実に取り込んでいく必要性を述べている11)。これにより、児童館における相談機能を高め、子どもや親の来館を待つのではなく、集団活動過程でニーズを発見することを重視し、積極的にかかわっていくことが必要であるとしている12)。そして、来館しない、あるいはできない子どもたちと出会い、子どもたちが抱えている課題に気づける可能性が高いとして、児童館外へのアウトリーチ活動によるニーズ把握の可能性を論じている13)

さらに、牛島らは子どもの遊びを中心とした児童館の実践活動に加え、専門性の高い保護者支援に関する取り組みを向上させる必要性を指摘している。具体的には、児童館の職員自身が保護者支援は力を入れて取り組むべき業務であることを認識し、そのために職場の理解やサポート体制を整える必要性を論じている14)

これらの先行研究の結果からは、児童館と地域社会との連携強化の重要性が明らかとされているものの、一般財団法人児童健全育成推進財団により2021年度に実施された「全国児童館実態調査」の結果からは、移動児童館活動の減少傾向が報告されている。具体的には、全国の児童館のうち23.6%において移動児童館活動が行われているが、この数値は児童館ガイドライン改正前の2016年度に行われた「全国児童館実態調査」より4.9%減少していることが示されている。2020年頃から世界的に流行した新型コロナウイルス感染症の影響も考えられるが、明確な要因は明らかにされていない。また、移動児童館活動の具体的な実施内容に関する調査も行われていないため、移動児童館活動の実態が十分に把握されているとは言い難いのが現状である15)

そこで本研究では、児童館ガイドラインによる「地域における健全育成の環境づくり」の定義を踏まえて移動児童館活動の内容を明らかにした上で、移動児童館活動における遊びや文化的活動等の体験機会の提供が、子育て支援や、孤立した子育て家庭への支援等の地域ニーズの把握や充足に向けた取り組みに発展する過程を分析する。それにより、地域における健全育成の環境づくりに対する移動児童館活動の可能性について考察する。なお、本研究における移動児童館活動の定義は、広く児童館が行う外部での活動を指し、訪問支援やアウトリーチ活動、出前児童館、出張児童館等の類似する名称の活動を含むものとする。

II 方法

1 調査概要

調査期間を2021年12月1日から2022年3月4日とし、郵送式の質問紙調査を行った。調査先は全国4,453箇所の小型児童館および児童センター、大型児童館、その他の児童館とした。なお、調査対象は「全国児童館実態調査」を実施している児童健全育成推進財団が運営しており、児童館情報を集約しているWEBサイト「コドモネクスト」16)において2021年10月時点で記載のある児童館とした。回答数は1,088件(回答率:24.4%)であり、そのうち、有効回答数は625件(有効回答率14.0%)であった。有効回答の抽出にあたっては、調査票の各質問項目において1箇所以上記入漏れや不備があった回答を除いた。なお、その他の児童館とは「児童館の設置運営について」3)において、小型児童館の設備および運営に準じ、各地域の特性や児童の実情等に相応した施設として定められているものを指す。

2 調査内容

調査票は、2021年度の「全国児童館実態調査」における質問項目を参考に作成し、施設の基本情報としては児童館の施設種別や設置運営形態、開設年、児童厚生員の配置状況等について回答を求めた。また、移動児童館活動の実施している児童館については実施回数やその年次推移について尋ねた。さらに、移動児童館活動の全容を把握するために、筆者独自の質問項目を追加しており、具体的活動内容や、それらの活動をとおして把握した地域ニーズの有無および対応状況などを確認した。また、移動児童館活動を実施していない児童館に対しては、実施に向けた検討を行う上で解決の必要がある課題等について尋ねた。

3 分析方法

調査項目のうち、移動児童館活動をとおして把握した地域ニーズの充足に向けた取り組みについては、自由記述により78件の回答を得た。そこで、これらのデータについて、大谷によって開発された分析方法であるSteps for Coding and Theorization(SCAT)17, 18, 19)を用いて分析を行った。SCATを選択した理由は、回答者の文脈を踏まえた言い換えが困難な箇条書きのアンケート自由記述のような小さなテキストデータに応用可能であり、今回の研究における分析対象と親和性が高いためである。本研究では、地域ニーズの充足に向けた取り組み状況に関する自由記述回答の分析に使用し、自由記述における語句を切片化した上で、類似する回答のグループ化を図るという手順で行った。

4 倫理的配慮

本研究は、新潟医療福祉大学倫理委員会の承認(承認日:2021年7月20日、承認番号18682-210720)を受けて実施している。

III 結果

1 項目別結果の概要

質問紙調査の項目別結果の概要を表1に示した。

まず、施設種別の内訳は小型児童館340箇所(54.4%)が過半数を占め、次いで児童センター242箇所(38.7%)、大型児童館9箇所(1.4%)、その他の児童館34箇所(5.4%)という結果であった。設置運営形態別は公設公営(行政機関が設置し、かつ直営している施設)の小型児童館は204箇所(58.3%)が最多である一方、児童センターでは公設公営と公設民営(行政機関が設置し民間法人等へ運営を任せている施設)が同数であった。また、児童館の開設年代については、1980年代から1990年代においては児童センターが最も多く設置され、2000年代からは小型児童館が最も多く設置されていた。

移動児童館活動の実施率を施設種別ごとにみると、小型児童館では340箇所のうち108箇所(31.8%)が実施しており、児童センターでは242箇所のうち59箇所(24.4%)が実施しているという結果であった。

2 移動児童館活動の実施回数の推移

2018年度から2020年度の3年間に1回以上実施したと回答した児童館は178箇所(28.5%)に留まり、実施していないと回答した件数447箇所(71.5%)の半数以下という結果であった。これらは概ね2021年度「全国児童館実態調査」の結果と同様であった。

また、3年間に1回以上の移動児童館活動を実施している児童館178箇所に対して、その実施回数を尋ねたところ減少傾向がみられた。表2に示したとおり、年間実施回数では5回未満の児童館が全体の半数を占める一方で、年間21回以上実施している児童館も約10%あり、二極化していることも判明した。

さらに、移動児童館活動を実施していない447箇所に対して、実施に向けた検討を行うにあたり、解決の必要がある課題について尋ねたところ(複数回答可)、人材が321箇所と最も多く、財源が230箇所、時間が211箇所、場所が200箇所と続き、地域からの理解は126箇所と最も少なかった。人材という課題については、表3に示したとおり、児童館職員のうち常勤の児童厚生員の人数が、移動児童館活動を実施している児童館において、実施していない児童館より平均1.2人多い結果が示された。

3 移動児童館活動の実施内容

移動児童館の活動内容を自由記述方式で尋ねた結果、主な活動場所と内容については次の6点に整理された。第1に保健センター等の母子保健を担う公共施設や保育園等で行う、未就学の親子を対象とした親子ふれあい遊びや育児相談等の子育て支援活動、第2に放課後児童健全育成事業を行う、いわゆる学童保育に児童館職員が訪問し、利用児童に対して遊びの提供を行う活動、第3に小学校の校庭や体育館等の学校関連施設、公園や野山等の屋外における運動遊びの提供、第4に老人福祉センター等の児童福祉以外の福祉施設における、児童館で練習した出し物の披露等をとおした利用者との触れ合い活動、第5に公民館等の社会教育施設や地域の集会所、コミュニティーセンター等における工作等の創作活動や観劇等の文化的活動、第6に町探検や防災マップづくりを地域の商店街等で行う活動が示された。

4 児童の健全育成に関するニーズへの対応状況

移動児童館活動を実施していた178箇所に対して、活動をとおして把握できた児童の健全育成に関するニーズの有無を尋ねたところ、ニーズがあるという回答は113箇所(63.5%)であり、ニーズがないという回答の65箇所(36.5%)を上回った。さらに、この113箇所に対して、把握したニーズについて充足に向けた取り組みを行ったかを尋ねたところ、実施したという回答は71箇所(62.8%)であり、実施していないという回答の42箇所(37.2%)を上回った。具体的なニーズ充足に向けた取り組み内容を表4に示した。これらは、児童の健全育成に関するニーズを把握したという113箇所からの回答内容について、質的分析方法のSCATを用いて分析した結果である。表内の表記については、〈〉はグループ化した言い換え、【】は生成した概念を指す。

分析の結果、移動児童館活動をとおして把握した地域ニーズの充足に向けた取り組みの内容としては、9つのグループが生成され、さらにグループ同士の関係性を検討し、4つの概念が抽出された。1つ目の概念である【児童館を知り、利用へつなげる支援】は、移動児童館活動自体を、児童館という施設の存在を知ってもらうための取り組みのひとつとして位置づけ、活動参加をきっかけとして日常的な利用につなげ、児童館本体においてニーズ充足に向けた取り組みを展開することを目指す活動等が該当する。移動児童館活動をとおして、児童館本体による運営だけでは児童館に関する情報を届けにくい対象者へ広報する狙いも含まれていることが示唆された。2つ目の概念である【積極的コミュニケーションをとおした参加者の多様性の理解】については、移動児童館活動を利用した児童や保護者等と児童館職員が積極的に関わり、ニーズの変化に合わせて活動内容の見直しを図る取り組み等が該当する。この場合のコミュニケーションとは、児童館職員と参加者の日頃からの言語的なやりとりを継続することをベースとしつつ、移動児童館参加者に対するアンケートなどをとおして参加者の声を聴く取り組みなども含まれる。また、参加者の参加回数や頻度に関係なく、児童館職員から積極的に関わりをもつことで、安心できる雰囲気を創出し、参加者個別の状況や課題を把握できるきっかけになるといえる。3つ目の概念である【参加者同士の交流が促進される新たな支援環境の整備】は、移動児童館活動への参加をきっかけとして子育て家庭の保護者同士の交流が図られ、子育ての孤立を防ぐ取り組み等が該当する。4つ目の概念である【社会資源とのつながりの意識的な活用】は、児童館本体がもつ社会資源とのつながりを、移動児童館活動で明らかになったニーズの充足のために活用し、公的機関や地域資源との関係性を強化する取り組み等が該当する。また、児童館ガイドライン第6章に謳われている、地域組織の代表者や学校教職員、保護者等を構成員とする運営協議会等の組織を活用についても移動児童館活動の展開に有効であることが示唆された6)

IV 考察

1 移動児童館活動の実態について

III「結果」の2「移動児童館活動の実施回数の推移」で記載したとおり、移動児童館活動の年間実施回数が年5回未満に留まる児童館が50%以上を占めており、単発的な児童館行事の一部として移動児童館活動を実施している状況があると考えられる。その一方で、年間21回以上実施している児童館も約10%あり、移動児童館活動の定期的な実施が定着している児童館も存在していることが明らかとなった。

また、移動児童館活動を実施していない児童館のうち、解決すべき課題を「人材」と回答した児童館は71.8%に上った。特に保育士や社会福祉士などの基礎となる資格保有者が該当する、児童厚生員の常勤人数については、平均1.2人の差があり、専門的知識や経験をもった人材の不足が明らかになった。そのため、多くの児童館が人材の確保に困難を抱え、限られた予算規模や環境条件の中で移動児童館活動を実施できていない現状があることが示唆された。移動児童館活動の実施に向けては、児童厚生員の資格保有者が勤務していることに加え、一般財団法人児童健全育成推進財団が実施している児童厚生員等基礎研修会などの研修受講をとおして職員の質的向上を図る必要性がある。さらに、移動児童館活動を地域との関係性を構築する機会として捉え、地域住民からの活動へ参画する協力を得る等、地域と一体となって活動する視点が重要であると考える。地域住民にとって、児童館は18歳未満を対象とした児童福祉施設でありながら、全世代にとっての地域の活動拠点として活用することできるという認識を強く意識してもらうことも大切である。その意味において、児童館の職員はソーシャルワーカーとして児童を取り巻く環境にも働きかけることが可能な立場であるため、地域における健全育成の環境づくりを推進する役割を担える可能性がある20)

さらに、III「結果」の3「移動児童館活動の実施内容」で既述したとおり、移動児童館活動の実施内容については子育て支援活動等の6点に整理され、これらの活動はいずれも、児童館ガイドラインの第3章「児童館の機能・役割」に記されている「遊び及び生活を通した子どもの発達の増進」や「子どもの育ちに関する組織や人とのネットワークの推進」等を具現化したものと考えられる6)。一方で、「子どもと子育て家庭が抱える可能性のある課題の発生予防・早期発見と対応」に関する取り組みは積極的に行われていない可能性があることが示された。これは、先行研究において児童館によるアウトリーチ(訪問活動)をとおしたニーズ充足を図る重要性が指摘されていながらも、2.6%程度の実施状況に留まっていたこととも一致している。したがって、移動児童館活動においては、アウトリーチの一形態として地域ニーズに対する早期発見と、対応につなげる取り組みへと発展させることが期待されていると言えよう。具体的には、遊びや児童館で行う文化的活動等の体験機会の提供を基盤としつつ、その中から課題把握やケース抽出等を行い、個別的な対応を展開することによって利用者のニーズ充足につなげる活動の実施等が考えられる。このような取り組みをとおして、移動児童館活動の利用者である保護者と児童館職員の間でより深い関係が構築され、気軽に相談ができるようになったり、児童館本体を訪れるきっかけにしたりすることも可能になる。そして、これらの取り組みを、移動児童館活動の主軸のひとつとして位置づけるための方法としては、遊びや文化的活動などにおいて、参加者がより主体性を発揮できる機会を増やすことも考えられる。すなわち、遊びを提供する側とそれを受ける側として、児童館職員と参加者との関係を位置付けるのではなく、参加者が主体的かつ積極的に活動できるように支援するという姿勢も重要であり、それによって、児童館の職員は活動全体を俯瞰的に把握し、参加者一人ひとりの変化に強い関心を向けることが可能になる。また、遊びや文化的活動の事前準備に費やす時間を抑えつつ、参加者のニーズに向き合い、充足に向けた検討を加えることも期待できると考える。

2 移動児童館活動の展開と可能性

III「結果」の4「児童健全育成に関するニーズへの対応状況」で把握された結果から、移動児童館活動をとおしてニーズを把握し、それを充足するための取り組みを行った児童館は6割を超えていた。さらに、SCATで生成された4つの概念のうち、他の社会資源等へのつながりを意識した支援を展開することで、移動児童館活動が児童の健全育成に関するネットワークを構築する足掛かりにもなることが示唆された。したがって、児童館本体の機能を活用し、保護者同士の交流や児童館以外の社会資源との連携等を図り、活動の振り返りを伴う循環によって、地域における児童の健全育成の環境づくりにも発展する可能性があることが示唆された。これらは、児童館の地域偏在や施設数の減少等、広く地域社会が抱える課題に対して、児童館が貢献できる役割のひとつでもあり、移動児童館活動の実施は、地域における健全育成の推進にも寄与すると考えられる。以上のような一連の展開過程を、健全育成の環境づくりに向けた移動児童館活動の循環的発展の観点から整理した模式図が図1である。

移動児童館活動の開始にあたっては、児童館ガイドラインで示されているように遊びや文化的活動の機会の提供を中心に行われているが、実施回数を重ねる過程で、次第にニーズの把握につながることが今回の調査結果から把握された。その後の展開期においては、移動児童館活動内容における地域ニーズ充足に向けた取り組みを行う段階であり、4つのタイプに大別できる。1つ目は利用促進型である。これは児童館の認知度を高め、児童館本体の利用へつなげ、児童館における活動への参加等をとおして個別ニーズの充足を目指す取り組みが該当する。2つ目は、個別支援型である。児童館職員と移動児童館参加者の関係を深めながら信頼関係を構築し、地域ニーズの中でも特に個別性の高い子育て支援ニーズ等について、状況把握や支援提供に努める取り組みが該当する。3つ目は環境調整型である。移動児童館活動をとおして、異年齢や他地域に住む参加者同士の交流を促進し、新たな関係性を育む環境調整へとつなげる取り組みが該当する。4つ目は、資源活用型であり、把握された地域ニーズへの対応を児童館が丸抱えするのではなく、社会教育分野や母子保健分野、保育分野等のフォーマルな資源の活用や、地域住民や地域組織のインフォーマルな資源の活用などによって、充足を目指す取り組みが該当する。

これらの地域ニーズの充足に向けた取り組みは、次の段階である発展期へとつながり、児童館ガイドラインにおいて児童館の施設特性として挙げられている拠点性、多機能性、地域性にも結び付くことが示唆された。図1においては、展開期の4つの型と、児童館ガイドラインにおける児童館の施設特性との間で、相互の影響が強く関連性が高いと考えられる項目を太い矢印で示した。これに加え、児童館の施設特性を参考にして移動児童館活動を発展させるためには、4つの全ての型との間でそれぞれ一定の関係性があるため、薄い矢印で間接的な影響の関係を示している。

1つ目の拠点性とは、移動児童館への参加を契機として児童館本体の利用へつなげる流れがあり、利用促進型と強く結びついていることを意味する。児童館ガイドラインによれば、拠点性とは児童が自らの意思で、自由に遊んだり、くつろいだり、年齢の異なる児童が一緒に過ごせることを指している。移動児童館活動を実施していない場合にも、いつでも利用ができる児童館本体の強みを活かして居場所としての機能を発揮する等の取り組みが考えられる。また、移動児童館活動においても遊びや文化的活動の提供に限らず、自由に遊んだり、くつろいだりできる環境を整えることも想定される。これは、2023年に閣議決定された「こどもの居場所づくりに関する指針」で示されているように、居場所と感じるかどうかは「こども本人」が決めることであり、自ら過ごし方等を選択できるという主体性を重視する考え方にも共通している5)。そのため、児童館職員は児童の自由を単なる放任と捉えるのではなく、主体性を尊重し、積極的に保障する姿勢が求められていると考える。

2つ目は多機能性であり、児童が直面している福祉的な課題に対応するために個別支援型および資源活用型との結びつきが強いことを意味する。移動児童館活動を児童館のない地域で展開することで、利用児童や保護者と児童館職員との関わりを基本としながら、福祉的な課題の解決が必要なケースの把握にもつなげられるようになる。それにより、利用児童や保護者をエンパワメントできるとともに、必要に応じて関係機関に橋渡しをすることによって、多様な福祉的な課題に対応できる可能性が高まると考える。

3つ目は地域性であり、児童館内に限らず児童の発達に応じて地域全体へ活動を広げ、関係機関と連携して地域における児童の健全育成環境づくりを推進することを意味する。移動児童館の参加者を介して地域住民との関係が広がるとともに、社会資源との関係性も深化する。そのため、環境整備型および資源活用型との結びつきが強いと考えられる。地域性の充実には、移動児童館活動を児童館の短期的なひとつの行事として留めることなく、地域住民における認知度を高め、地域住民が主体的に活動へ参画できるように発展させることが求められる。それにより、地域社会と児童館の関係が強化されるだけではなく、地域における児童の健全な育成に向けた意識の醸成にも寄与できると考える。

V 結論

図1の開始期で示されたとおり、移動児童館活動への参加によって利用者は児童館職員と出会い、児童館を知り、活用する契機となる可能性があるといえる。また、児童館職員との関係を深めることで、個別支援や環境調整などのサポートを受けたり、必要に応じ他の社会資源へ新たな関係性を構築したりするきっかけを得ることができる可能性が示された。さらに、発展期以降では、活動の新たな価値の創造と共有を地域住民とともに推進することで、主体的にかかわる地域人材が増え、地域住民と児童館が一体となって児童の育ちを考え、行動する地域づくりを目指すことも可能になると示唆された。

したがって、児童館ガイドラインに定められている、遊びや文化的活動等の体験機会の提供は、あくまで移動児童館活動の外形的な説明に過ぎず、本研究の結果からは、児童館と地域が移動児童館活動を介して連携し、地域ニーズの把握と充足に取り組む活動へと展開する可能性があることが明示化された。

そのため、児童館の運営にあたっては、図1に示すような取り組みの循環による意義や可能性を認識することの重要性が明らかとなった。それにより、単なる活動の継続性や連続性の担保という観点だけではなく、地域住民が主体的に子育て等のニーズの充足に向けた取り組み促進する観点からも、移動児童館活動のみならず、児童館活動全般において地域における健全育成の環境づくりを下支えする機能を発揮することが可能になる。したがって、移動児童館活動をとおして、直接的な利用児童やその保護者に限らず、より広範な地域住民が児童の健全育成に関わる意識を醸成し、地域住民による主体的な活動へと発展する可能性を有していると考える。

今後、より多くの児童館で移動児童館活動に取り組めるようにするためには、IV「考察」の1「移動児童館活動の実態について」で述べたとおり、人材の確保は大きな課題であるが、短期的に予算増額と職員の増員は望めない可能性が高い。また、単にマンパワーが不足していることだけではなく、児童館で勤務している職員の質の向上を図る必要がある。さらに、児童館運営全体を見直し、意識的に地域における児童館の役割を明確化することをとおして、移動児童館活動の価値を再認識することが求められる。

今回の研究では、移動児童館活動の活動内容やその発展過程に着目し、地域における健全育成の環境づくりに対する可能性を検討したが、移動児童館の利用児童や保護者の視点からの調査は不十分であり、今後の課題である。また、児童館運営にあたっての人材の確保の課題や移動児童館活動をとおした児童館同士の連携機能についても今後は詳細な調査を行いたいと考えている。また、今回実施した調査においては有効回答数が14%に留まっており、回答施設に何らかの偏りがあった可能性も否定できない。さらに、移動児童館活動の実施有無には、当該地域の人口や面積比で児童館設置率や年齢別人口構成割合なども大きく関係することが推察されるため、今後の課題として調査方法と対象、項目を精査し詳細な研究を行いたいと考えている。

謝辞

本研究は科学研究費補助金、基盤(C):21K02366、基盤(C):22K01966の助成を受けている。

利益相反

本研究には開示すべき利益相反は無い。

References
 
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