抄録
置換基に炭素ドナー原子を有する2-置換-8-キノリノールを合成し,二価のパラジウムや白金と第二の単座配位子存在下にシクロメタラト錯体を合成した.M-C(sp3)結合を持つ五,五あるいは五,六-キレート環は安定であるので,キレート環のCα,Cβに付いた置換基と単座配位子との立体相互作用が認められた.単座配位子がピリジンのような,小さな分子では相互作用はあまり大きくはないが,トリフェニルホスフィンのようなかさ高い分子では顕著な相互作用が現れる.錯体のX線構造解析の結果,Cβに結合している二つのエステル基はトリフェニルホスフィンのベンゼン環の二つと近い距離にあり,その結果,M-P単結合の自由回転を阻害していることが認められた.このような3隣接位置換基の立体相互作用はエステル基プロトンの1H-NMRスペクトルの吸収移動と分裂の様子からも推定できる.そこで,本報ではCαについた置換基や単座配位子を変化させて実験を行い,反応に使用できる単座配位子の構造や条件を明らかにした.そして,メトロニダゾール(2-methyl-5-nitro-1-imidazoleethanol)やAZTなどの特徴ある単座配位子を用いて新規なシクロメタラト錯体を合成し,立体的な特性について検討を行った.