日本化學會誌
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アスコルビン酸酸化の研究. I
バッファーの種類によるアスコルビン酸空氣酸化の相違
篠原 龜之輔
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1940 年 61 巻 7 号 p. 733-740

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抄録

アスコルビン酸空氣酸化の状態はバッファー基質の種類によつて異なる.枸櫞酸バッファーは該酸化に對して強力な阻止作用を有する.フタール酸,醋酸及び燐酸バッファー中に於ける該酸化は極微量(10-7M或は其以下)の銅鹽によつて促進せられる.此の事實はGhosh等の結論と相反する.枸櫞酸バッファー中に於ける該酸化は100%酸化に迄進行するに反し,他の3種のバッファー中に於ける酸化は中途に於て停止し,猶多量のアスコルビン酸は殘存する.該空氣酸化は夾雜せられた銅鹽の觸媒作用に因ると考へられる.何となれば精製した試藥を用ひて施行した醋酸バッファー中の實驗に於ては極微に酸化が起こるに過ぎない.該酸化が中途に於て停止する原因は次の事實に存する. Cu++がアスコルビン酸によつて先づCu+に還元せられ,次に此Cu+がバッファー基質と解離度の極小さい錯鹽を形成するか或は此鹽からCu2O又は金屬銅が沈澱となつて析出し,觸媒作用を有するCuイオンが反應液から消失する.從來の研究者が上記の現象に注意しなかつた理由は彼等の觀察時間が僅か2時間を出でなかつた事,或は比較的大量の銅鹽を添加して實驗を施行した事にある.
該酸化過程中生成する過酸化水素はモリブデン酸-沃度カリ法により定量的に測定せられた.

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