日本化學雜誌
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箱根大湧谷噴気孔ガスの放射性成分含有量の変化
鎌田 政明
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1961 年 82 巻 8 号 p. 1008-1012

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抄録

箱根大湧谷坊主地獄の噴気孔ガスの放射性成分含有量は, 1951 年以来,ラドン含有量,トロン含有量ともほとんど変化がなく,多少あってもラドン含有量 26~48x10-10curie Rn/l (NTP,H2Oを除く)の範囲内程度のものであったが, 1959 年 12 月以来,ラドン含有量が急激に減じ, 5.7×10-10curie Rn/l (NTP,H20を除く)となった。しかしトロン含有量もほぽ同様の割合で減少したので,トロンとラドンの比にはそれほど変化はみとめられなかった。この変化後,ふたたびラドン含有量はほとんど一定となり, 1960 年 12 月まで 5.4~8.4×10-10curie Rn/l (NTP,H20を除く)の範囲内の値を示した。また Tn/Rn の比もあまり変化していない。
この変化の原因についていろいろ考察した結果, 1959 年 9 月 ~ 1960 年 3 月の間にこの付近に発生した群発地震の影響であることを推定した。 噴気孔の活動状態 (温度,噴出量) に変化がみられないこと,ガスの主化学成分の組成にラドンのような大幅な変化がないこと,ガス中の Tn/Rn がほとんど変化していないことなどから,深部から噴出するガスの性質の変化,あるいは噴出速度の変化によるものとは考えられず,結局この場合にもラドンなどの供給帯は比較的浅い場所にあり,地震のため,深部からのガスに接する供給帯の表面積, S が減じたものと考えられる。供給帯の中のラジウムなどの分布は比較的分散的と思われるから,噴出するまでの通路が変わって,ラジウム含有量のことなる供給帯をとおるようになったという可能性は少ないようである。噴出孔の移動などもほとんどみとめられていない。
ラドンのほか,その同位体であるトロンが噴気孔ガス中にみいだされる場合には,この二つの同位体を組み合わせて考える方法が,噴気孔ガスの動き,あるいはラドン,トロンの供給源の研究に有益な方法であることを示した。

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