PhnX型分子の場合,個々のベンゼン環の特性振動は,分子全体の対称性によって決まる一定の振幅・位相関係のもとで相互に振動し,異なる対称種に属するいくつかの基準振動を構成する。本研究は,一連のPhnX型分子について,そのCH面外変角および環面外変形振動の強度を,このような観点から解析したものである。すなわち,観測される個々の吸収帯の強度の大きさを決定づけている要因を検討した結果,同一の対称種に属するCH面外変角および環面外変形振動の強度の和をとると,異なる対称種に対応するこの強度和の相対的な大きさは,ベンゼン環の内部回転角θのみの関数になることが示された。この考察に基づいて,個々の基準振動の強度を測定できるPh2S, Ph2SO, Ph3CH, Ph3CNH2について,その強度からθを求めたところ,他の方法による文献値のあるPh2S, Ph3CHについてその文献値とよい一致が見られた。これは,本研究の強度の扱い方の妥当性を示すばかりでなく,強度から分子構造に関する知見を得る可能性を示唆している。最後に,ベンゼン環一つあたりの特性強度を評価し,それに対する置換基効果を, PhX型分子の場合と比較,考察した。
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